夜半に憂う






寂しくて、寂しくて、息もできない。




「一さ、ん…わたし、もう…」
「もう……欲しくなったか?」
耳元で囁くと、少女が短い悲鳴を上げてしがみついてきた。視界を奪われ、不安でたまらないのだろう。
この暴挙に及んだのは他ならぬ己だというのに―――縋り付く千鶴を、斎藤はただ愛しく見つめていた。
答えるように、細い身体をかき抱くと、体温に安堵したのか、少女の口から熱い吐息がこぼれた。
「はっ…あ…」
その様に、抗いようもなく欲が疼く。今の自分は、さぞかし醜い形相をしているのだろうと、斎藤の考えに自嘲が絡んだ。

こんな風に辱めて、彼女に忘れられない記憶を残そうなどと、大概に卑しい考えだ。けれども、その願望が確かに心の裡にあると知ったとき、斎藤は行動を起こしていた。「残された時間は少ない」―――それを、言い訳にして。

この心と身体に、痕跡を残したい。まるで消せない傷を残すように。

「一さん、はじめさん…っ!」
「………っ…!」
酷く責め立てている瞬間でさえ、千鶴は斎藤の存在を求めるように、熱い肌を寄せた。

浅ましい声さえ聞かれたくなく、情交の最中は、歯を食いしばり息を殺す。そのうちに、口の中にわずかに鉄の味が混ざり、どこか切ったのだろうと知れた。


「…すまなかった」
「いいえ」
事が済んだあと、魂を無くしたように横たわる千鶴の髪をそっと撫でた。と、目隠しを外された少女が、涙の残る目元で微笑んだ。その瞳に映すのは、いたわりの色。

「……私は、あなたの寂しさを、埋められているでしょうか」

ぽつりと呟かれた言葉に、斎藤は何も答えられずにいた。ただ、目を閉じたままの頬に、涙がひとしずくだけ、伝う。


傷付けることなく、傷付くことなく、この思いを伝えられる方法は、今もわからないままだ。


end.


2010/10/10 澪さまに捧げもの

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