【それなりに甘い?バレンタイン】


「すげえ量だな。これ、全部配るのか」
「はい、お世話になった方への気持ちですから」
「バレンタインってそういう日だったか…?」

目の前の原田の表情は苦笑いになっていた。

「やっぱり、変ですか」

言いながら千鶴は彼の分のチョコレートを差し出す。それはやはり皆に渡す物と変わることはない。
今のところは特定の大切な人にあげるチョコなんてないのだ。
高校生にもなって少し遅いんだろうかと、心の中では思っているけれど、無理に誰かに熱を上げるようなことも、何かが違う気がして。

「変ってことはねえけどよ。お前らしいな」

そんな自分の内心を見透かしたように、大きな手が頭を撫でてくる。そうされると何か安心してしまい、少女の頬が自然と緩んだ。

「ありがとうございます」
「おう。…って、これじゃ逆だな。チョコありがとよ、千鶴」

温かな声で礼を言われ、そっと微笑み返す。そうして、彼の前を辞そうとしたとき。

「…なあ、千鶴、いつか…」

ためらった様な声が響き、少女は足を止めた。

聞いたこともないような声、だった。

思わず振り向いて原田を見ると、「何でもねえよ」と笑われる。千鶴は不可思議な気持ちのままに、その場を後にした。



「…情けねえな」

彼女が居なくなった部屋で、原田は小さく自嘲する。
言いたい一言を口にすれば楽になれるのに、それが出来そうにないのだ。

いつか、俺を見てくれるか。

ささやかに甘いその言葉は、未だ彼女の元には届かないまま、男の裡に秘められる。どこか苦いバレンタインが二人の間で思い出に変わるのは、ずっと先のお話。


end.

2011/02/13/Twitter

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