【それなりに甘いバレンタイン】


不味くはない。とにかく尋常でなく、固いのだ。千鶴の手作りチョコレートを食べた土方の感想はそれに尽きた。

「あの…も、もういいです…よね?片付けます…」

食べる様をじっと見守っていた少女は、そそくさと箱に手を伸ばした。しかしその前にさっと箱を奪われてしまい、千鶴は驚いた顔を上げる。

「ひ、土方先生、返して下さいっ」
「断る。なんでせっかく貰ったもんを返さなきゃなんねえんだ?」
「だって食べてるとき、先生、すごく眉間に皺寄せて」
「うるせえな地顔だよ」

きゃんきゃんといつになく千鶴が迫ってくる。
大人しい彼女にしては珍しい剣幕であるが、土方としては首を傾げるしかない。なんだって付き合ってから初めてのイベント事に恋人とこんなやりとりをしているのだろう。
箱を返してもらえない千鶴はもはや涙目である。

「だって、初めて先生に渡すチョコだから、もっと上手に作りたかったんです…!」

そうきたか。

興奮した千鶴の口から放たれた言葉に、土方は小さく唸った。
くそ、と毒づいて彼女を腕の中に捕まえる。戸惑う彼女を逃さないようにして告げた。

「…来年も、再来年も作ればいいじゃねえか。何なら一生でも、待ってやってもいいぜ」

低く囁かれた言葉は的確に伝わり、少女の頬がみるみる赤く染まる。

「…土方先生、その、今の」
「何度も言わせんなよ」

するりと零れた言葉は、将来の誓いに似ていた。
何か面映いものを感じて、また一つチョコレートを口に放り込む。それは確かに固かったが、不味いという訳では、断じて無い。
しかめっ面と、情緒のない約束。
けれどそれなりに甘いバレンタインデーの一幕である。


end.


2011/02/09/Twitter

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -