【戦火の中】
連続して撃ち込まれる砲撃に、建物全体が揺れていた。次はいつこの陣中に砲弾が飛び込んでくるかも分からない。永倉は焦れて奥歯を噛み締めた。
その間にも目の前の少女は黙々と永倉の手当を続けている。手馴れた様子で腕に包帯を巻き終えると、額から流れる血を恐れることもなく拭ってくれる。
流血に慣れ切ってしまったのだろうかという懸念が頭を過るも、状況はそれを許さない。
永倉は一つ礼を言うと、戦場に戻るために踵を返す。すると、思いもかけない強さで、掌を捕まえられた。
「千鶴ちゃん」
「絶対に、絶対に、生きて戻ってきて下さい。お願い」
悲痛なまでの願いがそこにある。
永倉は同じだけの力を籠めて、彼女の手を握り返した後、勢いよく陣を飛び出していく。
そうだ、それは慣れではなかった。
彼女は自らの生を切り開く為に、目前の務めを果たしているに過ぎない。おそらくは、自分や、この戦の中で生きる遍く人々と同じに。永倉の口元が引き結ばれる。
戦いが終わって陣に戻ると、疲れ果てた千鶴は、壁にもたれて眠りについていた。ただいま、と小さく声をかけても返事はない。隣に腰を下ろす。
今に全部、終わらせてやるから。その時は、また笑ってくれ。
心の中で呟かれた言葉は、誰も聞くものはいない。
けれども二人は今ここで、生きている。
end.
2011/01/15/Twitter