【負けず嫌い・土千】
「……待て、待て、待て、てめえでやる」
「駄目です。はい、口を開けて下さい?」
にっこりと、匙をもったまま微笑む娘に、土方は泡を食った表情で身を引いた。
可愛い笑顔が、今は悪魔か何かに見えるほどだ。
実際、無理をして体調を壊している自分に腹を立てているのだろう。
世話焼きなのは彼女の美点だが、怒りを伴っていると、少し面倒なことになる。それを口にしたら火に油を注ぎかねないな、と土方は秀麗な顔立ちに苦笑を浮かべた。
「ど、どうしたんですか。言っておきますけど、私、」
僅かに気を削がれた千鶴が、口を尖らせて男を見上げる。その手を取りあげた。
「土方さん!?」
「うん?食わせてくれるんじゃなかったのかよ」
平気な顔を装い、匙にぱくりと食らいつけば、千鶴の顔にみるみる朱が昇った。思ったとおり、詰めが甘い。
「まあ、俺にこんな事しても許せるのは、お前くれえだ。他の誰にもこんなみっともねえとこ見せられねえしな」
しれっと呟く。
「だから、お前が倒れたときには、俺が着きっきりで看病してやる。そこんとこ覚えとけよ」
にぃ、と笑って、腕を解放してやる。
返す言葉を失った千鶴は、赤くなった顔を隠すよう横を向く。やがて蚊の鳴くような声で、土方さんの馬鹿、と呟いた。
馬鹿で結構。まだ主導権は譲らない。
end.
2010/11/24/Twitter