【涙と罪と・左之千】



父親がつけた左之助の手の甲の傷は、もうおおかた塞がっていて、具合を確かめた千鶴を安堵させた。

「だから、あんまり心配すんなって言ってるだろ」

優しく囁かれ、その大きな手を頭に置かれる。この手にどれだけのものを捨てさせてきたのかを思うと、胸に強い痛みが突き上げて、千鶴は手を当てた。

泣いてはいけない。

彼を困らせたくないと、千鶴は唇を結ぶ。
すると左之助は、包帯の巻かれる手で、そっと彼女を自分の胸に引き寄せた。男の胸元に、額が触れる。

「左之助さん、」
「…お前の考えてることなんてお見通しなんだよ」

そう言って、くしゃくしゃと千鶴の髪を乱した。その感触に、目を細める。

「俺はお前の泣いてる顔は見たくねえ。けどな、独りで泣かれるのはもっと御免だ」

だから、泣くなら俺のそばにいろ。

不器用に紡がれる言葉が切なくて、今度こそ涙が零れてしまう。

(ごめんなさい、ありがとう)

無骨な手にあやされるのを感じながら、千鶴は心の中で何度も何度も繰り返した。


end.

2010/11/20/Twitter

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