【けんかの後・風千】




「…風間さん?」

迎えに来た人影を認めて、千鶴は目を瞬かせた。
まさかあのように喧嘩をした後に、彼自らが連れ戻しにくるとは、思いもよらない。
…いや、もしかしたら。
これで彼との事は終わりなのかもしれないと、千鶴の胸は慄いた。そうしている内に彼の姿が近づき、声が掛けられる。

「…帰るぞ。もう日が暮れる」

それは予想していたものよりもずっと穏やかで、千鶴は耳を疑った。

「…どうして?」

さっきは、とてもひどい事を言ったと思う。それを証拠に、風間はまだ憮然した表情が残っていた。それでも、彼女の手をそっと引いてくる仕草は、少しも乱暴ではない。

「…お前は、終わりにしたいのか?」

見透かしたように囁かれて、千鶴の胸が高鳴る。慌てて彼の瞳を見上げれば、切ない色が透けて見えた。

「そんな…ことないです」

絞られるような胸の痛みとともに、娘が答える。

「あの、帰ったら、お話してもいいですか?」

彼が頷くのを見て、少し鼻の奥がつんとした。

夕焼けに染まる里の道を、二人は手を繋いだまま帰る。
ささいなきっかけで何度も壊れかける、彼と彼女の絆。けれでも、どちらかがこうして手を離さなければ、本当の終わりは来ないのかも知れない。

「…ごめんなさい」

小さく呟いた千鶴の手を、風間がまた強く、握ったような気がした。


end.

2010/10/20/Twitter

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -