【こんな左之千は嫌だ】
※ 左之さんが羅刹化しちゃってます
苦しげに細められる紅い瞳。
白く染まった髪は、彼が人ならざる存在へと変貌したことを示していた。
原田さん。
名前を一つ呼んで、千鶴は唇を噛む。
ずっと隣にいたくせに、なぜ変化に気付かなかったのか。その事実が、彼女を苛んだ。
それでも、彼が再び苦痛に身をよじったとき、彼女の心は決まっていた。
あの笑顔を。いくたびも自分を温めてくれたあの笑顔を失う位ならば、恐れるものは何もない。
己を傷付けて、血を捧げることなど、ほんの些事のように千鶴には思えた。
そして、衣服をはだけて身を寄せる。
刹那のあいだ、絶望的な色を宿した紅い瞳と視線が絡んだ。彼女は静かに頷いてみせる。左之助はわずかに躊躇ったあと、鎖骨の下、浅く傷をつけた彼女の肌に唇を這わせる。ビクリ、と怯える身体を、壊れるほどに抱きしめられ、涙がこぼれそうになる。
ああ、私達はどこかで選択を誤ったまま、歩き続けてる。
それでもこの手は離さないで。たとえあの日語った夢から、遠ざかるとしても。
end.
2010/10/02/Twitter