【SSL・雪村兄妹】
そういえば、調理実習なんてものがあったっけ。
家庭科を選択していない薫は、千鶴から手渡された包みを見て、ようやくその授業の存在を思い出す。
「だけど、兄貴なんかに渡してもいいのか?おまえ、あげたい奴くらいいるだろ」
何気なく放った言葉は確信をついたようで、千鶴はちょっと口を濁らせる。
「だ、だから…恥ずかしくて渡せないの!」
千鶴によると、受け取ってもらえるかさえ怪しいのに、勇気なんて出ないらしい。ふーんと気のない返事を返したら、ムキになった千鶴に早く食べるよう催促された。
(俺としては、渡せないならそれでもいいけど)
薫は思う。千鶴の想いが叶う日は、そう遠くない。
恋をして、どんどん綺麗になっていく自分に、千鶴は気付かない。そしてそれを見ている薫が、ときどき怖いと感じてしまうことにも。
「ねえ薫、味はどうかな?」
「微妙」
「…意地悪!」
いずれ離れることは分かっているけれど、もう少し、もう少し、このままで。
end.
2010/09/29/Twitter