「腕組むのも久しぶりだったな」
シカマルの声に私は、泣きそうなのを悟られないように大きく頷いてみせた。里が平和になり、暖かい春を待つだけの毎日にようやく恋人らしい日々を送っている私達の久しぶりのデートは、以前となんらかわりない空気だった。
「うん。まともなデートできてなかったからね」
「まあ、これから取り戻して行けばいいだろ」
シカマルの柔らかい笑顔に胸がいっぱいになって微笑んだ。
「おま、なんつー顔してんだよ」
シカマルに小突かれてなによ、とお返しにおでこを叩いてやった。
「別になんでもないです!」
「おこんなよ」
「おこってないよーだ」
「解ってる」
喉の奥でくつくつと笑う彼に、敵わないと笑った。
壊滅的ダメージを受けのは人ばかりでなく里の建物や一般人にまで被害は及んでいる。復興に向けて歩き出したばかりのこの国はまだ完全な復興には程遠い。
「おどうざん!おがあさん、」
だからまだ小さい子供達が孤児になったり、家を失ったりして途方にくれる人や、泣き叫ぶ子供達はたくさんいる。視界の端にうつる、たくさんの瓦礫の前で泣く小さな男の子に、私は自分の無力さと幸福を感じている。
「私、嫌な人間だな」
呟くように言った言葉を、シカマルはいつも通りめんどくせえと言って流して欲しい。中途半端な罪悪感や、自分に対する嫌悪、他人の不幸を見て幸福を感じるいやしい私に、許すような言葉をかけないで。
「仕方ねえだろ。あの子供だけを助けるわけにはいかねえし、全員助けたとして面倒見れるわけじゃねえ。お前が何か背負う事もねえよ」
シカマルの優しくて大きな手が私の頭を2度3度と撫でる。泣きそうだった私の涙腺はついに崩壊して、涙が出て止まらなかった。シカマルはそんな私を見て、お前が責任を感じる必要はないと言って抱きしめてくれた。その腕を振り払う事も出来ない私の流した涙は、なんて汚いのだろう。
私が泣いたのは、決して可哀相なあの小さな男の子の為ではない。自分はいかに幸福で、恵まれていて、そうして無力で、中途半端な偽善をかざしてあの男の子は可哀相だと思う、この、醜い心に気付いた自分自身の可愛さ故の涙だ。シカマルに愛されている事が、どうして今解るのだろう。あの男の子が私なら、シカマルは私に手を差し延べてくれるだろう。本当に、へどが出るくらいに私は最低だ。本当に優しいあなたの隣にいる事さえきっと、いつか私は耐えられなくなり叶わなくなる。
あの日流した涙の理由
(それをあなたは知らない)
End
→企画サイトLoving!Love!Loved!様に提出しました。
どうして私のは愛がうまく表現できないのでせう。
愛されてる事が嬉しくて泣いてるのです。
回りくどいのかな、わたし。
だけどとても楽しく書けました。
ありがとうございました!
#nobel#