准羅 Side
保健室には黙ったまま向日の側にいる軌翠と俺しかいない。向日は寝てるし。軌翠は黙り込んだままだし。保健室には沈黙が流れてる。そんな中、ピアスから希の声が聴こえてきた。はぁ・・めんどくせぇ、と呟いて、ネックレスのボタンを押す。
「・・・っんだよ?希・・・・・・・・・・・あぁ。まだ眠ってるぜ。・・・・・・・・あぁ。分かった。・・・・・・・・・おう・・・・・・・・・・・・・・・ちぇっ。へいへい・・・・・・・・・じゃーなっ!」
ピッとネックレスのボタンを押し、軌翠に向かいなおった。軌翠、と名前を呼ぶと軌翠はこちらに目を向けた。
「今日は部活に行かなくていーってよ。」
「えっ?・・どういうことですか?」
「お前が行ったら東條はお前にマネージャー業を押し付けるだろ?徠歌もいねぇ、軌翠もいねぇ、となると東條がやるしかねぇよなー。希が他の奴に手伝わせないよーにしてっしな。」
「・・・それって・・・」
「おう。東條が仕事出来ないってことがバレるだろーな。」
ククッと喉の奥で笑った。
「あー・・・後、保険医は不在ということになってっから俺は居なかったことにしとけよ。一様な。」
ということで、そいつが起きたら呼んでくれよー?と向日を指差し呟きながら自分の仕事に戻った。
――――・・・
向日 Side
重い瞼をゆっくり開けると辺り一面、真っ暗闇な世界。
「何処だ・・・ここ?」
小さく呟いた自分の声がやけに大きく聴こえる。色も音も何もない。そのことで恐怖すら感じられる。
恐い・・・何処、なんだよ・・・っ?!
「・・・ゆーしーっ!」
パートナーの名前を呼んでも返事が返ってくる気配を感じない。
「そんなに恐いんですか?」
恐怖が心を支配していく中、何処からかそんな声が聴こえてきた。何処かで聴いたことのあるような声、懐かしい声が。
「岳人先輩って結構、怖がりなんですね。」
「あ・・・か、ね・・?」
今では呼ばれなくなった名前。恐くて瞑ってた目を開けると俺の目の前には茜と・・・俺?
「どう、なってんだ・・よっ・・?」
戸惑い、今何が起きてるのか理解しようと頭をフル回転させる。周りを見渡せば、テニス部の皆が居た。皆、笑ってる。今はない、昔のあの頃の皆の笑顔がそこにはあった。
嗚呼・・・これは夢なんだ。昔の楽しかった頃の夢を見てんだな、俺。そう理解出来た。あの頃は本当に楽しかった。皆が笑ってて、同じ目標を持ってて、だけど、ライバルであり、仲間でもあった。そんな奴等だから楽しかったんだ。何でこうも変わってしまったんだ・・・?いつからこの歯車は狂い始めたんだ?
・・・いつから?
俺の心を写しているかのように場面は変わる。急に見馴れた部屋へと変わった。
ここは・・部室か?
「っ?!いったい・・・何があったんだ・・っ?」
その声にハッと我に返る。この光景は美姫がイジメられ始めた日だ。
「ヒクッ・・あ、かねちゃんがぁ・・・いき、なりぃ、ドリンクぅをぉかけて、きてぇ・・・・ぅっ・・・・・」
この時はまだ、信じられなかった・・・。茜が美姫をイジメたなんて・・・思いたくも無かった・・・。茜がそんなことするわけねぇって・・・俺もあいつらも同じだったと思う。
バシッと乾いた音が辺りに響き渡る。
次に現れたのは茜が美姫を叩いた時の記憶だ。何で叩いたのか理由を言わない茜にムカついて・・・殴った。だけど・・・何で茜は叩いたんだ?何で跡部とジローは茜を信じた?何で侑士は永藤を・・・・茜を信じた?何で向こう側へいったんだ?
何で・・・?
分からない。分カラナイ。何デコウナッタンダ?イツカラ壊レテイッタンダ?俺達ノ関係ハ。・・・分カラナイ。
向日の心は壊れていく。ズタズタに。