寒かった、寒かった。

ただただ寒いだけだったあの季節。

人を愛する暖かさを知らなかったあの頃の俺に春を魅せてくれたのは、

玲央奈だった。


 甘く蕩けだす胸の痛み



「樹くんて、今彼女いる?」


「んー、今は別に」


実は昨日別れたばかり。だから嘘はついてない。“今”はいないのだから。


「だったら私と付き合わない?」


俺に告白してきたこの女の名前は弥咲。

今年の春から同じ塾に通っている、清楚なタイプの女子というのか。

間違っても渋谷センター街で座りこんでる女達とは違う。


弥咲と居ても退屈ではないし、顔も悪くない。

それに頭はいい方だ。俺はここまで考えると弥咲の方に向きなおった。


「いいよ」


弥咲は嬉しそうにありがとう、と呟いたけど俺は正直どうだってよかったんだ。

ただ付き合うに等しい理由を見つけただけ。それだけの事。


好きか嫌いか、と問われれば好きと答えるだろう。

だけどその好きが他の好きと異なるか、

と聞かれればそれはまた別の話のような気がする。




その三週間後、塾に新しい教師がきた。

柄にもなく彼女の事が気にになった。

彼女は透き通った小さな声で授業を進めていった。

クラスの連中がうるさくて彼女の声が通らない時は

彼女が悲しんでしまうんではないかと心配した。


気付くと目で追っている。
けどこの気持ちをなんて呼ぶのかわからなかった。

俺はぐだぐだと弥咲との関係を続けていた。




冬も終りになろとした頃、弥咲から別れを告げられた。

正直驚いたが、特に引き留める理由もみつからなかった。




弥咲が言うには俺には好きな人がいるらしい。



頭に浮かんだのは彼女。

その時あれが一目惚れだったのだと知る。



塾の帰りに彼女を待った。


「先生一緒帰りませんか」


彼女は一瞬驚いたが目を細めて頷いた。



他愛のない会話の中そろそろ駅につくころ、俺は意を決した。


「先生、すきです」

思ったより口にした言葉は体内を熱くした。

そして今度はとてつもなく驚いた彼女は少しの間の後、

どうして?と小さく首を傾げた


「篠塚くんはどうして私が好きなの?」


「理由はないんです。多分理由がないから好きになったんだと思います」


「そう?それは面白いわね、じゃあ、お友達からどうでしょう?樹くん」


彼女は花の様に笑った。

一人好きになるのに理由などない、それは俺が初めてみつけた答え。

多分初めて好きになれた人。



寒い冬はもうじき暖かい春を迎える。

それはまるで冬の終りと同時に蕩け出すこの想いのように。


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