>>#6
シノツカ
「樹、連れション対象な」
「トイレぐらい一人で行けよ」
俺よりも幾分も背の高い蒼井楓とは小中高と11年間同じクラス。
要は腐れ縁って奴なのだろう。ここまで偶然が重なると正直気持ちが悪い。
一度決めたら絶対意見を曲げない彼の性分を知っているのでおとなしく、
連れション対象になることにした。
ふと楓が洗っている手を見たら、そこには血が滲んで固まったような掠り傷。
思わずその傷を余り力を入れずに叩いてみた。
「痛ってー。何すんだ、樹。」
「お前、また喧嘩したのか?」
痛みからか、図星を付かれたからか。苦虫を噛んだ様に顔を歪める、楓。
「まあ、喧嘩吹っかけてきたのは相手だし、俺悪くねーし?」
「五十歩百歩だ」
元々喧嘩早い彼は、自分からは売らないものの、売られたら買う。
全盛期だった中学時代に作った生傷は絶えず、今も多少は残って消えないらしい。
目の前でへらへらと笑う男の性格は俺よりは大分穏やかだ。見た目は派手だが。
その頃の俺は優等生面を掲げた、ただの女たらしだった記憶がある。
「なー、樹。原先生は元気か?」
「最近は忙しいらしい。あんまり連絡とってない。」
今も忙しくペンを走らせているであろう彼女を思い、少し頬が緩んだ。
「ニヤけてんじゃねーよ、バーカ。もっと自分の女ぐらい構ってやれよ」
本当はその逆だ。もっと構って欲しいのはどっちかって言うと俺のほうだ。
思わず開いてしまった携帯を静かに閉じるとため息が出た。