>> 素直になって








「うわ……何これ、ドッキリとか何か?」


朝、目を開けると視界いっぱいに見慣れた髪色の男が現れた。

狭い布団を2人で共有するにはかなり無理があったらしく、

私の体は気持ち悪いほどにその男と密着していた。


それでも何故か嫌な気分がしないのはきっとこの男が、


私に酷似していたから。



さらさらと流れる亜麻色の髪に肌の色。普段は隠れて見えない耳の後ろにあるホクロまで一緒だ。

きっと閉じられた瞼を開いたら私と同じモノがあるはず。



「起きて」


ゆらゆらと彼の肩を掴んで揺さぶる。しかし、起きる気配は無い。


「総ちゃん、朝よ起きて」


喉の奥を広げてなるべく高い声でそう言ってみせた。姉のミツバの声に似せて。


「ん…姉上」


こんなところまで似ているのかと苦笑した。

パッチリと開けられた瞼、その奥の瞳はやはり朱。

彼のほうといえば、驚いた素振りを見せずにただ、こう一言私に言った。



「俺、ちゃんと避妊しやした?」



…鼻を思いっきり摘んでやった。それはもう力の出せる限りに。

強烈な痛みのおかげでちゃんと脳が覚醒したのか、鼻を抑えながらも

ようやく彼は私の存在を理解したようだ。



「お前似てるな」

「貴方にね。」



思考も似てるのか考えることは一緒なようで、とりあえず名前を言い合った。

「総悟」に「総楽」。これもまた似ている。きっと苗字は同じ「沖田」であろう。

異常な状況に居るのにどちらも冷静なのは持ち前の性格からなのか。




「意外と筋肉質なのね」


自分そっくりな男の身体が妙に気になってしまった。

彼の胸にそっと手を置くと、意外な筋肉質な胸板を感じることができた。

少し驚いた表情をしたがすぐにニヤリと笑い、彼も私の胸を掴んだ。



「大きくもなく、小さくもなく。つまんねェ胸だな」


随分失礼なことを言ってくれたものだ。

まるで自分に触られているような感じがするので嫌悪感は全くなかった。

お互いの身体をペタペタと触りあって楽しんでいたのだが、正直飽きてきたところだ。



「……外、出るか。今日お前もどうせ非番だろィ?」

「そうね。」



そしてふと思った。この自室から出たら一体どちらの世界に居るのだろうか。

自分のほうか、はたまた彼のほうか。外の世界とを隔てる薄い襖を開けるのを渋っていると

彼は何食わぬ顔でそれを思いっきり開けた。



「あ!沖田隊長おはようございます」



ほっとした。目の前で元気よく挨拶しているのは見慣れた永倉だったからだ。



「知ってる?」

「知らねェや」



こっそりと耳打ちすると普段の声量で返事が返ってきた。全くもって無神経だ。


「あれ、そちらの方は?」

「あー、えっと…」

「従兄でさァ」



あら、貴方が年上なの?とすこし悪態を付いてしまいそうになったが話をあわせておくことにした。


「土方副長が呼んでましたよ」と永倉から告げられ、二人して眉をひそめた。

どうやら彼も土方という男が苦手のようだ。




―――
――




屯所内の間取りは同じらしく、目移りするものが無くてつまらないと文句を垂らしている内に

土方のヤローの部屋の前に着いた。



「土方さん、入りますよ」



女がそう声を掛けて襖を開けるとそこには目立つ銀髪が居た。

その容姿はそっくりそのまま旦那で・・・とっさに女の腕を掴んだ。



「あれが土方?」

「そうだけど…貴方のところのは違うの?」




―――
――




「……総ちゃん。そちらはどちら様?」

「従兄です」



きっとこの嘘は彼には通用しないんだろうなと思う。

物心ついたときから彼は私のそばに居たのだ。私に年の近い従兄が居ないことを彼は知っている。



「今日、総ちゃん誕生日でしょ?だから皆でお祝いしようと思うんだけど。」

「別にそんなの平気です。子供じゃないんだし」



私がどれだけ成長しても甘やかしてくるこの男は上司としての威厳が無い。

へらへらと笑い、まだ髪を結っていない私の頭をわしわしと撫ぜる。



「おじさん20歳以下は子供だと思ってます!だから総ちゃんは子供!」

「全く貴方って人は…」



くるりと後ろを向くと口をあんぐりと開けている総悟の姿があった。

土方さんも総悟を視線で捕らえ、「君もどうだ?」と問うた。




「酒が飲めるんなら」



ニヤリと口角をあげる総悟に親指を立てる自分の上司の腕を思いっきり叩いた。


総悟のことをあまり詮索しようとしない土方さんはやっぱり優しい、そう思った。





―――
――




こっちの土方サンは話の判る人の様だ。

それにしてもその土方サンの総楽に対する扱いに驚くばかりだ。

否、土方サンの好意に気づかない総楽に驚いているのか。



「俺が女だったら鈍感なのかよ…」



鈍感女は苦手範囲に入るので自分がそうなのかと思うと溜め息が出た。

そして総楽の腰にぶら下がっている番傘を見て一人の女を思い出した。



「その番傘。お前はそれで戦うのか?」

「ええ。昔にこれをくれた男の人に戦い方を教えてもらったの。」


「手合わせ・・・「もちろんいいわよ」



二人で中庭まで歩いて、戦闘態勢に入るとぞろりと野次馬が集まってきた。

女の戦い方はまさにあいつにそっくりで。身軽に俺の刀を交わし番傘から銃を放つ。

違うところといえば、そこまで怪力ではないのと、治癒力が人間並みな事。

同じ人間なので男である自分のほうが優勢だと思われた。

少し手加減してやるかと刀の持ち方を変えたときに、額に冷やりとした感覚。

銃口を額にぴったりと当てられていた。




そういえば前にもこんなことがあった。

あいつといつも通り喧嘩をしていたとき、小石に躓いたあいつが高い声で小さな悲鳴を上げたので

すこし気を緩めたときに同じように番傘の先が俺の額に当たっていた。



「女なめると痛い目に合うわよ」

「その通りでさァ」



結果は女の勝ち。男としての威厳がないと不貞腐れたが、妙に懐かしい気分に

ほんの少し涙が出そうになった。恋人である彼女は一体今何をしているだろうか。



「ちょっと。そんな落ち込まないでよ」

「いや、別に負けたことに悲しんでる訳じゃねェや」



神楽…と呼んだことも無い彼女の名前を呟いて空を見上げた。




―――
――




「ねえ総ちゃん。別に我侭言ってるわけじゃないけど総一郎君来てからまったく構ってくれない」




それはセクハラとも呼べるだろう。背後から抱きしめられ擦り寄るようにそう言われた。

この行為は随分と昔からされているのだが、一向に慣れそうに無い。

背後からはやはり怖い。同時に心臓がムカムカして居心地も悪くなるのだ。



総悟が来てから、まだ数時間しか経っていないのに…

それに総一郎じゃなくて総悟だ。



「あ、そうだお誕生日おめでとう」

「とって付けたように言わないでください。それに言うの遅いです」

「いやあ、さっきは総一郎君もいたしね」

「総悟ですよ。まあ、ありがとうございます。てか早く離してください」

「素直じゃない君も好きだよー」



普段から好きという言葉を口にする彼の言葉は信用しない。

妹のように慕ってくれている土方さんは私のことはそういう対象に見ていないだろう。

それは私も同じこと。もう言い聞かせて痛む胸をそっと手で押さえた。




―――
――



「サド、起きるネ!暑さにやられたアルカ?」



そっと目を開けると真っ青な空とサーモンピンクの頭。

懐かしいその色を確認すると無性にそれを抱きしめたくなった。



「ちょっ、何?っらしくないネ」



俺の胸の中でじたばたとするその身体を強い力で封じると案外簡単に大人しくなった。



「今日、俺の誕生日ですぜ?」

「うん…おめでと」



隠すように伏せられた顔を強引に上げると満面の笑みが見れた。

身の回りの確認をしてみるとプレゼント的なものはなさそうだ。

もっともこいつの経済力には期待していない。



「ご飯でも食いに行くかィ」

「もちろんヨ〜」



あ、総楽に誕生日おめでとうって言うの忘れた。




―――
――




「誕生日おめでとう」

「誕生日なのはお前だろ?」

「いや、総悟に言ったんです」

「…妬けるなあ」




土方さんはぼそりと何かを言ったが、あまり聞こえなかったので聞き返したが、

何も教えてくれなかった。代わりに思いっきり両頬を引っ張られた。







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沖田さん達お誕生日おめでとうございます!
沖神・初期土沖前提の総×総でした。



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