>>ポニーテールと亜麻色の髪








それからというもの、土方はよく店に来るようになった。

他のお客とも顔馴染みになってきたのか、今では常連のように振る舞う程。

男の指定席はカウンターの右から3番目の席。初めて来店したときと同じ場所。

松平さんと来ることが多かったが一人でもやってくる。


「いつものからお願いね」


そして”いつもの”がホワイトレディーで始める事となったのも、男が常連になった証拠である。


「総ちゃん、最近表情が丸くなったわね」


キッチンで洗い物をしているとダイニングから身を乗り出した姉に、そう指摘され両手で頬を包む。


「やっぱり、恋なのか!?」


すると、リビングのほうでコーヒーを飲んでいた近藤さんが過剰に反応してきた。


「違いますよ。仕事が慣れてきたから…」


慌てて否定すると、姉はふーんとニコニコしながら手元のせんべいに手を伸ばそうとした。のも叶わず、

それをすっと取り上げた。パッケージを見ると『激辛せんべい』の文字。

気を抜くとすぐに辛いものを食べるのでとても危険だ。


「厳しいわね、総ちゃんは。…あら可愛らしい戦車ね」


それは、あの時のチョコレートのおまけ。飾るところがなかった為キッチンのカウンターに置いておいたのだ。


「それ、引くと進むんです」

「へえ、面白いわね」


ビーと安いオマケならではの音を鳴らしてカウンターの上を走る戦車は、

壁にコツンと当たり、止まった。その真上の壁にに掛けてあるカレンダーを見た。


そろそろ、6月が終わる。



「そろそろ誕生日ね、総ちゃん。19歳になるのかしら」

「あまり歳は取りたくないです」

「あらやだ、私より随分若いのに良く言うわ」


一回り年上の姉は私より全然年下に見える。ほんわかした雰囲気が彼女を若く見せているのだろう。

彼女はプレゼント何にしようかしらーとウキウキしながら去っていった。


「なあ総楽。」


発信源は意外と近かったようで、後ろを振り向いたすぐそこに近藤さんがいた。


「なんですか?コーヒーのおかわりですか」

「何か、最近……不可解な点とかはなかったか?」


不可解な点。辺りをぐるっと見渡すも何も変わった様子ない。

頭を横に振る。近藤さんはそうかと一言残し、

洗い物が終わった何もないシンクの中にカップを置いた。


「んじゃ、よろしく!」


びゅ―という効果音が聞こえたのではないかと疑うほど逃げ足が速かった。


「ちょっと近藤さん!」


少し声を張り上げて引きとめようと試みたが、もう既に自室に戻ってしまったようだ。



後片付けもすべて終わり、珍しく少し長めにお風呂に入った。

排水溝のほうへ流れる自身の長い髪を見てふと思い出した。

聡明な姉とは違い、元々頭が空っぽな私は近くにあるバカ高と呼ばれる高校に通っていたため、明るい頭髪については何も注意されなかった。

金色とも茶色でもないその髪色は人工的に作るには難しいと、クラスメイトの女子からよく羨ましがられていたものだ。


この色に名前をつけるなら……亜麻色、だろうか。


「髪の毛、ショートにしてみようかな」

「駄目、ゼッタイに駄目!そんなことしたらお父さん泣いちゃう」


ポツリとそうつぶやいたその言葉は、ちょうど風呂場近くの廊下を通ったであろう近藤に全否定されてしまった。




(切ったらポニーテールできないだろ?)

(姉さんと双子みたいで良いかなって)

(……それはそれでアリ、だな)

(近藤さん、気持ち悪…以下略)



「最近、総楽が冷たい!!!」






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