>>翼の無い背中
「時々ね、すごく懐かしいって思うときがあるの」
「うん。例えば?」
「青空を見上げたときとかに…なんでだろう、すごく悲しくて、温かい。」
綺麗な青みがかった黒髪を風に揺らしてそう言った彼女。
きっと観鈴の記憶の断片を思い出したのだろう。
彼女―ゆりは僕ほど転生前の記憶が無い。
放課後の通学路、海からまっすぐ伸びる道。彼女とこの道を共に歩いて15年。
最後にあの人たちに別れを告げてからもう10年になる。
短く切り揃えられていた黒髪は今では腰に届くくらいの長さにまで伸びた。
一方僕も成長期なりに身長がぐんと伸びた。
立ったまま彼女を抱きしめると幾分か低い身長の彼女は僕の身体の中にすっぽりと埋まる。
僕は、自分の胸の位置にある頭にキスを落とす。
吃驚した様に顔を上げ、「にはは」と照れる姿はどこか懐かしい。
「それとね、すごく大事なことを忘れてる気がするの。」
「……いいから。無理に思い出さなくても。」
彼女を抱きしめる力を強めた。見えない翼、もとい背中を撫でる。
時期に嫌でも思い出すときが来てしまう。せめてそれまでは君にゆりとしての時間を…
「僕の家、来る?異論は認めないけど」
「うん、行く!たんさん遊ぼ」
そして僕にも君を精一杯愛する時間を。近づく終わりまでその翼を支えるのは僕しか出来ない。