>> 死んだ精子
駄菓子屋、公園、河原、スーパー前。
歌舞伎町の道中で無意識に探してしまう鮮やかな髪色。
見つけたら、見つけたで戦闘になるか、良くて口喧嘩になるか。
暢気な彼女は知らない。自分がどれだけ彼女を愛しているか。
―――どれだけ彼女を欲しているかを。
「お前、名前は」
「紅香と申します」
「いや、お前は神楽だ」
淡い恋心を抱いていても、男は男。性欲も溜まる。
随分と来ていなかった遊郭を訪れ、彼女に身丈が似ている女を懐につけた。
女の顔には困惑の色が浮かんでいる。
「沖田さんっ」
彼女の声はそんなに低くない。彼女は俺を“沖田さん”と呼ばない。
「……神楽」
俺は彼女を“神楽”と呼んだことはない。
彼女はこんなに胸が大きくはない。こんなに肥えていない。
このように乱れたりはしない。まだ小さい彼女。
それを妄想で汚しているのは紛れもない俺自身。
目を閉じて視界を遮断すれば、遊女の姿は見えない。
変わりに映るは愛しい彼女の顔。
「本当はお前だけに、注ぎたかった。」
らしくもない発言をして目の前で死んでいくそれをただ虚無感の訪れとともに見送った。
両手いっぱいの愛を君に注ぐにはまだ君は小さい。