>>イースターエッグと歳の差







誘いを受けることなど人生で何度もあったはず。

もちろんすべて断ってきた。しかし、なぜだろう。

躊躇う事なく、肯定する返事をするためにボタンを押すその指は、

きっとそこらの若者並みに早かったと思う。



部屋の明かりを暗くして寝床に潜り、メールの返事を待つ。

そんな自分はまるで、恋をしているようで。

可笑しくなって失笑が漏れた。








『どこへ行くかは明日決めようか。とりあえず2時半に北駅前で』



バーの最寄り駅である北駅で待ち合わせ。

自宅から歩いても15分は掛からない。ラッキーだなんて思ってしまう私はまだまだ子供である。





「総ちゃん。ごめん待った?」



小走りで駅前の像まで駆け寄る土方十四郎。

クリームのポロシャツに暗色のジャケットと黒いタイトなパンツ。

大分カジュアルであるがその出で立ちはいつものスーツとあまり変わらない。

対する私も白い長袖のブラウスにグレーのパンツ。バーの制服に雰囲気は似ている。

私服でイメージが変わった。などということはお互い無さそうだ。

オフィス街から抜け出した様な衣装を纏った私たちは、この昼の繁華街には不釣合いだった。



季節は春。桜が散り始め、照りつける太陽は暖かに、時折吹く風は肌寒い。

電車を乗り継いで降り立った地は、高層ビルが立ち並ぶお洒落な町。



「この辺に有名なカフェがあるらしい。行ってみようか」



にこにこと尋ねる男。無言でこくこくと頷く私。

落ち着いていれば相当いい男だなと、すらりと伸びた後姿を見つめる。

男は携帯片手にきょろきょろと辺りを見回していた。

ちらりと覗けば見える携帯ナビゲーターの画面。面白くて吹き出しそうになった。



『進行ルートが変更されました。100m先、左に曲がります』



そんな女声が小さな機械から漏れ私はため息をつく。



「きっと、ここだと思います。」



未だにあっちかも、こっちかもと右往左往する彼に一声。

見るからに有名です、儲かってます。という雰囲気を醸し出している、お洒落なカフェ。

若い男女が身を寄せ合い、落ち着いた雰囲気の女性やおばさんが読書やおしゃべりに盛り上がっている。

ここがその有名なカフェでなくても良かった。かれこれ20分ほど彷徨ったのだ。

とりあえず、この無限ルートを終わらせて、どこか店に入って休みたかった。



あ、そうそう此処だよ。なんて笑っている男に苦笑する。

大分年上な筈の男が自分よりも年下に見える。にこにこと笑い、表情の柔らかい男と無表情な私。

今の状態で私以外の人間が、この男が私より年上だとは決して思わないだろう。



そう。大人な男性はデートに誘った女性の前でフルーツパフェを3つ食べないだろう。

少なくとも私は20分前まではそう思っていた。

この男、土方十四郎にはそんな概念は通用しなかった。



「総ちゃんはフルーツパフェ好き?」

「食べれますが、好きではないです。」

「チョコレートは好きか?」

「先ほどと同じです」



じゃあ、これあげる。と手渡されたものは卵形をしたもの。振ってみれば、何かが入っている。

小さいころ一度は食べたことがある。卵形の薄いチョコレートの中にカプセル入りの玩具がついたお菓子。

お店の中で開けるのは少し抵抗があったが、アルミフォイルの膜をぴりぴりと剥いだ。

現れた卵チョコレートに少し力を加えるとパキッと上下2つに割れた。



中身に入っていたおまけが少し気になる。何が入っていたのだろうか、と。

二人して静寂を作り息を呑む。未だおまけを隠すカプセルのふたをそっと開ける。

中からできたのは、



「・・・・小さい、戦車?」

「戦車だな。しかし良くできてる。」



こくりと頷く。顔を上げると目が合った。そして笑いあう。

土方は崩れたチョコレートを拾うとパフェのグラスへと入れた。随分と欲深い。

くれたのは玩具の戦車だけらしい。





(歳をとってもおまけを見るときのドキドキは消えない)

(復活祭、イースターエッグ。)







キンダーサプライズ。時々店で見ると買いたくなります。


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