>>ホワイトレディーと花言葉







松平さんと近藤さんは古くからの仲だそうだ。

私が小さいころからあるこのバーによく来てくれている。


学校でも友達が多いほうではなかった私にとっての唯一の居場所。



両親を亡くし、病弱な姉しかいない私達姉妹を預かってくれてる近藤さん。

あまり態度には示したことはないのだが、慕っているのも信じれるのも

男の人ではきっと近藤さん、この人だけであろう。



「総ちゃん、いつものよろしくなぁ」



フロントのカウンターに腰掛け、声をかける松平さん。

この人も私によくしてくれる。いつも気を遣ってくれる。

小さいながらもこのバーに入り浸っていた私を叱る近藤さんに

「いいじゃねーか」と腹から出したような大きな声で笑って場を和ませてくれる。



見た目は何か裏がありそうなのだが、近藤さんの知人だ。



「お前はどうする、土方。」

「日本酒以外はあまり飲まないのです。」



その男は若く、年も20代中盤から後半ぐらいと見た。

日本酒以外飲まないという事実に笑ってしまいそうになる。

どれだけ渋いチョイスなのだ。銀髪はきっとお洒落で染めているわけではないよう。



「君は何色が好き?」



その男に唐突に聞かれた。

大体の口説きにくるパターンの場合は軽くあしらうか、幾松に押し付けるかをするのだが、

この男はそういうのではなさそう。根拠はない。ただそう思っただけだった。


少し悩む。好きな色といっても着る服も小物もすべて白か黒。

この二つの中でと聞かれれば、きっと



「・・・白」



と答えるだろう。

ちょうど、今日の買出しで購入したスイートピーの花も白。

選んだ理由はただ‘甘いにおいがした’という実に古典的な決め方。

ちょうど私達がいるところから少しばかり離れたところに優雅に咲いている。

視線をそのスイートピーに移す。男も同時にそちらへと移す。



「・・・それじゃあ、白いカクテルでもお願いしよう」

「カクテルたぁ随分とかわいいじゃねえか、土方」


げらげら笑う松平さんとそれに苦笑するその男。

日本酒が好きだと言っていた。少し辛口のあれでいいだろう。

棚からジンと乳白色の液体、冷蔵庫からレモンジュースを取り出す。

少しアダルティーな感じもするが、きっとこの男には似合うだろう。

松平さんにはいつものウィスキーをグラスにゴボゴボと注ぐ。



「へい、お待ち」

「・・・総ちゃん、ラーメン屋じゃないんだから」



少しのご愛嬌だ。お酒を置く手が小刻みに震えていることに驚いた。

目の前に出された乳白色のカクテルに、男はこれは?と尋ねる。



「ホワイトレディー。」

「・・・洒落た名前だな」



その場だけしんと静まり返る。

光の通った目がこちらをじっと見つめている。息を呑んだ。

視線がそらせない。そんな私達を見かねてか、



「・・・・ここは若い二人でごゆっくり・・・なの・・か?」

「行こう近藤、今日は飲み明かそうぜ。」



とオジさん2人は肩を抱き合いながら店内の奥へと消えた。

少しばかり近藤さんの後姿が小さく見えた。






(白いスイートピー。恋のはじまり)

(そして、門出。娘を想い、さみしい父。)





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