>>バッキンガムと白い花







ここは繁華街。暗闇には負けないほどに煌びやかに輝くネオン達。


酒にやられ覚束ない身体を支えあいながら歩くスーツ姿の輩。


スカート短く、魔術かと思わせる程に厚く施された化粧を身に纏う女は下品に声をかけられる。


情などない。こんな街にはそのようなものは、一切ない。



この街に生まれ育った沖田もまた、同じであった。






「総ちゃん、お遣いご苦労様。」

「いいえ。このぐらい平気。」



目の前の男は私の手からつい先程買った荷物を奪い、中身の包装をびりびりと破く。

テーブルキャンドルを並べながら開店の準備をする店長――近藤。



開店まであと15分。店の制服に着替えるため、スタッフルームに入る。

ロッカーを開け、そのドア内側にある鏡で軽く身を整える。

中に寂しく架かる白いシャツと黒いベストに袖を通す。

最後にだいたい膝上5センチほどの黒いタイトスカートを履く。



ふうと一息つくと、「あら、早いわね。総楽」とスタッフルームに入る遅番の幾松が声をかけてきた。

実際のところ、私はこの子が苦手だ。

ぎゃんぎゃん吠えるその明るい性格は、この街には似合わない。まるで太陽のような存在。

対照的に自分は随分と落ち着いていると思う。何事にも冷たいと言ったほうがいいのだろうか。

しかし、かれこれ長い付き合いである。胸のうちを明かせることが出来る数少ない人間の1人だ。

世間はそれを親友と呼ぶらしい。幾松はよく私の親友と名乗る。



「あんたは遅刻。もうちょっと早く来たらどうなの?」

「いや、まだあと3分あるわ」

「十分遅い。」

「いいじゃん、ほら早く。店あけるよ!」





6時。この店、BAR BACKINGHAM(バー バッキンガム)の開店時間になる。

西洋の宮殿の名前をしたこの店は名前に似合わず、照明は暗く、かつ雰囲気は艶やかである。

ネーミングセンスのない近藤さんがつけた名前だ。きっと響きだけで決めたのであろう。

いかつい容姿とは裏腹に近藤はお茶目で抜けているところがある。

現に、せっせとテーブルキャンドルを並べている姿は実にかわいらしい。



「よお、近藤。また来たぞ」

「松平のとっつぁん、お久しぶりですな」



軽く60過ぎているであろう男の人。この店の常連のお客である。

銀髪もとい白髪をきっちりと後ろに流し、高そうなブランド物のスーツを纏う彼はカリスマ性を感じさせる。


そのとなりに居るこれまた明るい銀髪の・・・(これはきっと白髪ではない)男がすたと前に出る。



「部下の土方だ。」

「初めまして、土方くん」

「どうも」



挨拶を交わす、近藤さんと新しい人。

「なかなかいい男ね。若いし。」と聞いてくる幾松に、そうかと返す。

正直のところ、あまり興味はない。



未だ近藤さん等と楽しく立って談笑している。

ふつうなら、長くていらいらしてしまうであろうその状況でもその男は終始表情を崩さなかった。




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