>> 円周率







「それじゃあ、この問題。・・・沖田」



机に突っ伏していた沖田はゆっくりと頭を上げ黒板に書かれている問題を見る。

そしてガチャガチャと筆箱の中身を漁り、1本のシャーペンを手にとってノートを開いて計算式を書いていく。



「早く答えろ。なんだ、こんな簡単な問題も出来ないのか。中学生レベルの問題だぞ」


生徒から全くといって良いほど好かれていない中年の数学教師、渡辺。

眼鏡を掛け、きっちりとネクタイを締めるその姿はまさに厳格な教師。

サボる又は授業を受けていても寝ているかの沖田は渡辺に目をつけられていた。



尚も解き続けている沖田に渡辺は眉をひそめ、他の生徒に回答してもらおうと口をあけたとき、



「x=80.384でさァ」

瞬間クラス中が沸いた。

「沖田。そんだけ時間掛けといて不正解かよ!」

と沖田を茶化すクラスメイト達。



「・・・一応正解だ。」

がやがやと騒ぐクラス中がその一声にしんとなった。

声を漏らしたのは土方。



「総悟はただπを3.14で計算しただけだ。高校生にもなって3.14を使うなんざどういう神経してるんだか。」

呆れた物言いの土方はそれだけを言うと視線を窓のほうへと移した。



そしてクラス中のみんなは悟る。3.14。3月14日。それは今日。

今朝もホワイトーデーだ!お返しだなんだと騒いでいた。

『そういえば、神楽ちゃんにバレンタインもらえなかったらしいな・・・。』

皆が思うことはきっと同じ。沖田の留学生の神楽へ対する想いは周知のことであった。

もはや気づいていないのは本人ぐらいであろう。



バレンタインをもらえなかった沖田にとって今日のホワイトデーは無縁の話。

彼なら他の女子から貰えても不思議ではないのだが、今年はすべて断っていたよう。

沢山の女子がその日に泣いたのもまた事実であった。



『意外と気にしてたんだな』

『沖田くんドンマイ!』

「かわいそう」

誰かが言葉に出してしまったよう。

沖田はギロリと禁句をもらした人物へと視線を送ると、口パクで何かを伝えたようだった。

沖田からの熱い視線をもらった男子生徒はこの世の終わりというかの様に顔がみるみると青ざめていった。



「πつかう事ぐらいバカなわたしでも分かるアル!」



そう、元気よく言った少女の言葉を聞き、沖田がゆっくりと立ち上がる。

瞬時に危険を察知した教室中のクラスメイト達はやれやれとその二人から距離を置いた。



「・・・・・言ったな糞チャイナァァァァ!」

「私は思ったことを言ったまでネ!やるか、あぁん?」



お願いだから、これ以上教室を壊さないでくれと切実に思うクラスメイト達をよそに2人の戦闘は勢いをあげるばかり。



『来年は貰えると良いね』



教室内にいるすべての人間がそう沖田に同情するのであった。





3月14日 円周率の日(ホワイトデー) 2年生設定。


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