>> 穴にはまず足から入る





遥か昔から恐れられてきた結核。幕末明治にかけて蔓延し、
新撰組の沖田総司もこの労核により命を落としたといわれている。



どきっとした。



沖田総司と総悟。



同じような名前を持った男が隣の席でくーくー寝息を立てながら

堂々と授業中に居眠りをかましている。



まさか、こいつが病気に罹って死ぬ様なキャラではないとは思うのだが。

いっつも喧嘩を売ってくる馬鹿な男。

もしこいつがいなくなったら、私の人生安定不落になるであろう。



なんて思いながら、視線を隣の男から先ほどまで目を通していたテキストに戻す。



「んでィ、俺のほうチラチラ見て。惚れたかィ?」



一寸前までは安らかに居眠りをしていたそいつは、目をぱちりと開けこちらを見ていた。

瞬間恥ずかしくなる。手元のテキストをそうっとこちらに近づけ、隠す。



いつもなら全力で言い返すところだが、ガラにもなく『ずっと側にいたいな』

だなんて思ってしまった、私はまさに恋する乙女だ。



こんなアホに惚れてしまっていることに図星をつかれ顔をそらしてしまう。

震える声を悟られるよう、必死にだした「自惚れるなヨ」の一言はか細く、消えてしまいそうだった。



それからというもの、あいつはいつも通りに喧嘩を売ってくるのだが、素直になれない自分。

いつのまにかあいつを避けるようになっていた。

理由はもちろん、可愛いことが何ひとついえない自分への苛立ちと恥ずかしい気持ちのせい。



「なんでィ無視かィ?」

なんて言われ、またしても黙り込んでしまうと、

今度は向こうもこちらに喋りかけなくなっていた。

本当はもっと喋っていたい。殴り合いの喧嘩だってあいつとなら楽しかった。

しかし、視線を上げて彼を見るとき、言い返そうと彼に詰め寄るとき、

殴る拳が彼に触れるとき、挙げた足が彼に触れるとき。

どうしても意識してしまって、つい感情をすぐに引っ込めてしまう。



「コホッコホ」



風邪なのだろうか、あいつが最近咳をすることが多くなった。

隣の席だからこそ分かる。咳をする回数が尋常ではない。



「総悟、風邪か?病院行ったほうがいいんじゃねーの?」

彼の友人(と、呼んでいいものなのか)だって流石の咳の量に心配している。



翌日。

「えーっと、沖田君はちょっとした病気により入院中です。お前らあとでお見舞いメールでも送っといてやれー」

きだるくそう言う、担任・銀八もとい銀ちゃん。



SHRが終わって直ぐに土方のもとへ駆けつける。

彼の病状はどのような感じなのか、早口に聞いた。

土方は面をくらったほうな顔をしたが、「結核だそうだ」と答えてくれた。



・・・・結核。

およそ数週間まえに読んだテキストにそんなような病名があった気がした。

・・・・そうだ。沖田総司がその病気のせいで命を落としたのだった。

名前が似ているせいで、いつもより過剰に反応してしまう。



隣の席がぽっかりと空いた状態が2ヶ月続いた。



泣きたくなった。

彼は死んでしまうのだろうか。彼に似ている名前を持つ男性と同じように。

考えてしまうと、どんどんネガティブな方向へ進んでしまう。



嫌だ。告白もなにも、あいさつだって最近はしていない。

このまま何もすっきりしないまま彼は私の側からいなくなってしまうのだろうか。



宛先: 沖田総悟
件名: あほ
本文:
     明日は、学校くるアルカ?




こんなメールを作成しては消して。

それを毎日続けていた。結局送信ボタンは一度も押せなかった。



「神楽ちゃん、最近元気ないわね?大丈夫?」



姉御までにも心配を掛けてしまった。そんなに私は笑えていないのだろうか。

それよりもなぜ、皆はそうも普通にしていられるのだろう。

クラスメイトが2ヶ月も学校を休んで入院しているというのに。







宛先: 沖田総悟
件名: あほ
本文:
     明日は、学校くるアルカ?





また同じメールを作成する。

消去しようとクリアボタンに手を掛けようとしたとき、間違えて送信ボタンを押してしまった。

慌てて電源ボタンを連打するが、『送信しました』と画面に表示された文字を見て、

とりあえず、「どーーーーーしよーーーー!!!」と絶叫した。

ドキドキしながら返事をまったが、夜中の2時を超えても彼からの返信はなかった。



翌日は寝不足な頭を必死で起こして遅刻ギリギリに登校。

自分の席に吸い込まれるように座り、机に突っ伏すと



「学校、来やしたぜィ?」



頭上から聞こえた声にはっと顔を上げる。

そこには2ヶ月ちょい振りに見る憎たらしい顔があった。

思わず、「お前、死ぬんじゃないアルカ!?」って叫ぶ。



「何いってんだ、だたの結核だろィ。死ぬわけがない」

「だって新撰組の沖田は結核で・・・」

「お前、今の医療技術をなめたらいかんぜよ。これからはちょいちょい通院はするがほぼ完治でさァ」



うそだ!今の医療技術なんて知らない。

目の前にいる男と昔の男を重ねてしまって、一人で勝手に落ち込んでいたと言うのか!

だから、皆はあんなにも平然としていたのか。



「だから神楽ちゃんはそんなに元気がなかったのね〜。沖田君がよほど心配だったようね」

なんて姉御がくすくす笑うから、「違うネ!」って訂正するが、逆効果だったようだ。



(へえ、心配したんですかィ?)
(なッ!なんのことアルカ!!?自惚れるのも大概にしろ・・・ョ・・・)




ああ、穴があったら入りたい。

もうしばらく、この憎きドS星人から避けることになりそうだ。





あとがき

結核ネタのシリアスだと思いきやギャグ。を目指して失敗しました。
少し長いですが1ページにまとめてしまいました。


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