>> すべては暑さのせい・上
人生いつどう転がったら、こいつとのんびり土手でゆっくりすることになるのだろうか。
全く人生って分からない。
――――朝、珍しく寝坊した。
いつもは少し早く起きて定春の散歩に行くのだが、
起きたときにはもう銀ちゃんは居間にも寝室にも居なかった。
きっとパチスロにでも行っているのだろうが。新八にバラしてやろう、とにへら笑いを浮かべて、
私はちょっと遅い定春とのお散歩に出かけた。
もっとも、朝一番に散歩に行くには理由がある。
梅雨が明けて、日差しが強くなってきた今日この頃。
番傘を広げても地面から照り返す輻射熱(ふくしゃねつ)に耐えられなくなってきたためだ。
まだ初夏だというのに、今年は猛暑になりそうだ。
お決まりの散歩ルートを通っていると、見慣れた集団を見つけた。
その集団の中心に居た人物がいち早く私の存在に気付き、何かを右手に持ち、自慢げにこう話しかけてきた。
「よお、神楽〜。お前また今日もそのデカ犬と散歩か〜?なあなあ見ろよ、このラジコン。めっちゃカッコイイだろう?」
この歌舞伎町の女王の私に慣れ慣れしく話しかけてくるとは命知らずだな、
と心の中で悪態をつきながら、目の前にいる少年を蔑んだ目で見ながら言い返す。
「私、もうラジコンで遊ぶほど幼稚じゃないネ。ラジコンなんて子供の頃に手に血豆作るほど遊んだネ。じゃーナ餓鬼共」
ラジコンを片手になにやら言い返す言葉がない模様。
残念だな、少年。もといよっちゃん。
ラジコンなんて触ったことないけれど、今日はあまり気が進まない。
よっちゃん率いるチビっこ軍団を背に散歩ルートに足をすすめる。
さっきまで吹いていた爽やかな風もぴたりと止まり、ムシムシとした気温になってきた。
「定春ーそんなくっつくなヨ。暑いアル。」
と、耐えられない暑さにどうもできなくて、とりあえず近くにいた定春に責任転嫁。
でもなんとなく可哀想になってきたので、定春は暑くないよ、ごめん。と平謝りした。
また目の前に見慣れた集団。
今度は真っ黒くろすけな集団。
とりあえず、絡むのがめんどくさくなりそうなので、散歩ルートを逆戻りしようとした。その時、
ぐにゃ、と視界が歪んだ。何があったかは覚えてない。
気付けば、暑苦しい黒い隊服を着た、話しかけたくない男ナンバー1に躍り出る奴が隣にいた。
体にだるさを感じたが、少し上体を起こしてあたりを見回してみた。
どうやらここは土手のようだ。頭の近くには番傘が置かれ、頭上に陰がかかるようになっていた。
「よォ、気がついたかィ?」
ナンバー1がそう言った。周りには定春以外誰も居ない。
きっと私に言ってるんだろう。でも、体調が悪いときにこの男と話す気分になれないので、無視を決め込む。
「おィおィ無視かィ?ひでぇなァ。俺がここまでお前を運んできてやったって言うのに、薄情なやつでィ。」