>>倶利伽羅








多分幼い頃は雪ちゃんのことが好きだったと思う。

若くして祓魔師になって同い年とは思えないぐらい大人びてて。


でも雪ちゃんのお兄さんの燐は雪ちゃんと全然違って、

私と同じぐらい子供っぽくて頑固で、でも誰よりも強かった。

どんなに辛い時でもずっと笑ってた。そんな燐だから、傍にいてあげたいと思えたのかな。

それに、いざという時に必ず助けてくれる燐がとてもかっこよく見えた。


二人で結婚を決めたときも、お母さんはなんで雪男くんじゃないのか

なんで青焔魔の息子なんかと。ってすごい反対された。

燐は雪ちゃんに劣っていたことをすごく引け目に思っていたけど、

私が一番好きだったのは燐だけ。



反対を押し切ったあとの結婚は高校を出たあとすぐ。

今は大きくなった息子を身篭ったのは私たちが成人したての頃だったかな。


燐はできることなら悪魔に干渉されない生活を息子に送ってほしいと、

魔障を与えないようになるべく接触を避けてた。

子供が大好きで息子をとても可愛がっていたのに触れられないのは

とても悲しいこと。自分が悪魔だから年を取らないのもかなり気にしてたよね。



燐が触れてあげられない分、私が息子の頭を撫でてあげる。

幾分か大きくなった息子は撫でられるという行為に恥ずかしがっていたけれど

満更でもないみたいで。理由を聞いたら、



「母さんがそうしてる間の父さんの顔見たことある?俺に嫉妬して変な顔してるよ」


と笑ってた。でもね、きっとそうじゃないんだよ。

好きなだけ触れることができる私に嫉妬してたんだよって。

時々すべてを話してしまいそうになる。けれどしない。絶対に燐がそれを許さないから。



「俺は倶利伽羅を抜いたことを後悔はしてない。でも今なら自ら命を絶ってまで抜かせまいとしたクソ親父の気持ちが痛いほどわかるよ。」




ある日、買い物から帰ってきた私が見たのは息子とじゃれる燐の姿。

いづれはこうなってしまうんでは無いかと思っていたけど、ずっと我慢してきた燐が

幸せそうに息子に触れているところをみると胸が苦しくて涙がでそうになる。



「これで良かったのかもしれないね」



私はこう小さく呟いて出会った頃と大して代わり映えのしない旦那を抱きしめに行く。

本当は燐が一番泣きたいだろうから。もう無理して笑わなくていいんだよ。

悲しいときも嬉しいときも、泣いていいんだよ。ね、燐?




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