>>魔障
俺がまだ小さい頃、父はまるで兄のようだった。
老いていく母に比べて父は老けることを知らないのか若々しい姿を保ったままだった。
父は力強くて頼りになる。俺や母の事をとても大事にしていて、尊敬のできる父だった。
しかし、父が必要以上に俺に触ることは決してなかった。
そして俺が父に触ることも許されなかった。
童顔なのかそれとも年を取らない魔法使いなのか。
高校生になった俺は父の身長を超して、父は俺の弟とよく間違われるようになった。
母も父も若くして結婚して俺を授かったらしいが、それでも同級生の親と比べても父の若さは異常だった。
「なんでそんなに父さんは若いんだ?」
「知りたいか?俺はまだ若い頃に見知らぬ黒づくめ奴らに毒薬を…」
「それは何度も聞いた。」
聞けばいつも返されるこの馬鹿げた理由。それはもう耳にタコができるほどに。
そうかと八重歯を見せて笑う父を見て時々可愛いと思ってしまう。
「お父さんはね、昔はすごくかっこよかったんだよ。いつの間にか息子みたいになっちゃったんだけど」
と、よく母は言う。父をフォローするかのように。最後は余計だと思うが。
父が俺に触れない分、母はよく俺の頭を撫でる。それは高校生になった今でも変わらない。
「父さん、俺さみんなには見えないハエが見えるんだ」
父は随分と驚いた顔をして、そして長い長いため息を吐く。
その後、生まれて初めて父が俺の髪の毛をくしゃくしゃと撫ぜた。
「お前、俺に触ったのか」
「……ごめん、なさい」
つい、口を開けて寝ている父の鋭い八重歯に触れて以来、変なものが見えるようになった。
空中に飛び回る無数のハエのようなものはほかの人には見えないようで、誰も気には留めない。
「まあいい。とりあえず風呂一緒に入っとくか」
「え、いいよ別に。子供じゃあるまいし」
数時間後、俺に触れる父の姿を見た母は眉間にすこしシワをよせながらも微笑んでくれた。
これで良かったのかもしれないねと小さく呟く母の声はとても震えていた。
そして俺が近い将来、祓魔師になると決めるのはまた別の話。
(息子よ、牙に触れて自分から魔障受けるなど俺は考えもしなかったぞ…)
(え、あの子そんな魔障の受け方したの?)