ここだけのはなし

「なぁ、俺がここに噛み付いたらどうーなると思うよ、沖田くん」
「ど、どーなるって、んな、き……吸血鬼じゃあるめぇし…はは…」
「ははは、ほんとだよねぇ、でも、どーなると思うよ?」

どーなるもこーなるも、こんな真昼間のカンカン照りで、セミがみんみんみんみん大合唱の日本の夏!みたいな暑さの上、俺は真っ黒い学ランにアンタは真っ白い白衣着てどう考えてもアンタは治療する側の人間なんだろうに吸血鬼はねーだろィ。どっからどう連想すれば吸血鬼が出てきたんだ。

「いやいや、どうもこうもねぇですね。やっぱ。俺、休憩、違った、熱っぽいんで休ませて下せぇってここに来たってのに、なんでアンタに押し倒されてなきゃなんねーんですかィ」
「お前熱っぽい熱っぽいって毎日来るけど妊娠でもしてんの?」
「いや、どう見ても男子でしょうに」
「なんでもいいからとにかくちょっとだけここに噛み付いていいかな。銀さん喉渇いちゃったんだよね」
「喉渇いたってアンタ、百歩譲ってアンタが吸血鬼だとしてもそんな喉渇いたから飲んでいいですかみたいなドリンクバー的なノリで俺が飲ませるとでも?つーか妊婦から血ィ盗んなよ」
「なんだ、やっぱお前妊娠、」
「してねーよ」

銀八は保険医の癖に一癖が有りすぎる。癖というかなんというか、正直保険医には向いていないと思う。保健室に休みに来た男子生徒を押し倒して意味不明な発言をするくらいの不可解な行動は今に始まったことではないが、今日のはひどい。冗談もやっつけ仕事だと受ける此方もしんどい。

「あ、熱が治ったみたいなんで俺、教室戻りやす」
「熱が治るって何。まぁまぁせっかく俺の城に来たんだ、もう少し休憩していきなさいよ」
「城って何すか。今日の設定そういう悪魔的な何かなんすか」
「いや、吸血鬼」
「や、マジで教室戻っていいですか。もう勉強してる方がよっぽどマシでィ」
「もうちょっと乗ってこいよ」
「んな設定乗れるかィ」

入学して以来ここ(保健室)を自分の仮眠室の様に扱う沖田総悟(2年Z組)は今日も元気ハツラツにここへやってきた。「熱が痛てェでさァ」といつも適当に言う言い訳が適当すぎて今日のはひどかった。お仕置きとばかりにベットの上に転がった沖田くんの上にのし上がってみると、今まで見たことのない顔で目が開いた。お、コイツ可愛い顔もできんじゃん。おちょくる様に顔を近づければその頬が少し赤らんで声がワントーン上がる。

「んじゃ、今日はこの設定で、少し噛んでみていい?」
「今日はこの設定って別にいつも設定なんかねーじゃねぇですか。なんですかマジで。いつもみてぇにあっちで仕事しててくだせぇよ。俺、マジ眠いんで」

マジ眠いわけねぇだろ。お前いっつもベットに寝転んで俺の事見てんじゃねぇか。俺が立ち上がったらすぐ寝たふりしてんの知ってんだかんね。ふぁ、よく寝たってお前背伸びしてっけどぜんっぜんスッキリした顔してないんだからね。まだまだ一緒にいたいですって顔に書いてあんの。いやぁ学生って可愛いよね、素直じゃないのがまた可愛い。

「あーお前ほんと白いのな。この夏全然焼けてねぇじゃん、首んとこ。部活ちゃんと出てんのか?」
「いや、人の話し聞いてくだせぇよ頼みますからその天パにぶちこんで下せぇよ」
「聞いてる聞いてる。あ、お前シャンプー何使ってんの?」
「聞いてねぇ………」

げんなりした顔でそっぽを向く沖田くんの首元を指でつつつとなぞると、白い首の付け根が赤くなってくる。聞いてねぇし、とぼそりとつぶやくその顔が、実は赤くなってるとか絶対本人は気づいてないんだろうな。嫌なら押しどけてさっさと教室に戻ればいいのにね、沖田くん。
いくら生徒とは言え、こんなに近づくことは滅多にない。そりゃブッ倒れて抱きかかえて運ぶような生徒は何人かはいただろうが、こうもピンピンした生徒にここまで触れるには何かと理由がいるもんだ。ましてや俺は「先生」であってそうそう「生徒」に手を出すわけにもいかない。いかないというか出すか。
ずっと俺の事見ていたお前を、少しからかいたくなったんだよ。
バクバクと音が聞こえてきそうな心臓の音に、俺はくすりと笑うと沖田くんがじろりと睨みつけてきた。それもまた可愛いけどね。

「可愛い言うな」
「あ、聞こえてた。んー、じゃあ愛しい」
「………っ、はぁっ?!」
「はははすげー顔が赤いよ?沖田くん」
「ばっかじゃねぇの?!銀八、マジで頭イっちゃってんの?」
「うん、イっちゃってるイっちゃってる。だからもう少し襟のとこ広げるね、血ってつくと落ないからさー」
「え、まだそのネタいってんですかィ?」
「うん、そう。だってお前可愛いんだもん」
「あー……センセイ、俺マジで今日は帰りまさァ。全く意味がわかんねって痛ッツ!!!!」
「あ、ごめん、痛かった?」
「ふ、普通噛むかよ!!!ほんとに噛む奴があるか!!!あああっ、穴空いてらぁっ!!」

沖田くんの肩までシャツを広げた白い肌に、プツリと二つの穴。指で確認した起きたが飛び上がった。
それをペロリと舐め上げると沖田くんの顔は今度は真っ赤に茹で上がる。

「ははは、沖田くんカーワーウィーウィー」
「うっ、うるせぇっ」

シャツを襟のところできつく握り込み俺を押しのけてベットから降りた沖田くんは、踵を踏んでスリッパの様になったシューズに足を突っ込むと逃げるように保健室の扉を開く。

「またおいで〜」

扉が締まる瞬間、呑気に声を掛けた俺に「くるかっ」と珍しく声を荒げた沖田くんがパタパタと走って行く音がする。
きっと彼は明日もくるだろう。何か期待するかの様な眼差しで、銀さんの背中を見つめにくるだろう。
ねぇ、沖田くん。

「銀八の野郎、ほんっとに噛みやがって」

イテテとトイレに駆け込んだ沖田は、先ほど噛まれた穴を確認するように襟を広げる。

「………あり?……穴が――――、」



ない?



end?




end?

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