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紙一重
私は彼女が嫌いでした。
彼女にはあって、私にはないものがあったのです。自由奔放で、意のままに手に入れられる彼女。
今考えると、それは羨望だったのかもしれません。
私は彼女が好きでした。
私には持っていて、彼女には持っていないものが沢山あったからです。時折見せる彼女の羨望の眼差しが、私を満たすのです。
事実
私は知っている。
貴方が私と付き合っている理由。何故なら私の目元があの子と似ているから。
貴方の瞳はあの子しか映ってないって、それはこれからも覆されることはないんだって、全部、全部知っている。
微睡
貴方のことを思いながら浅い眠りに沈む、あの感覚が好き。貴方の笑顔が私を眠りに誘うの。貴方の声が子守唄となるのよ。とっても満たされていて、幸せ。
嵐
来る。嵐が来るよ。
いろんなものを引き連れて来るよ。
腐った林檎、蛾の死骸、朽ちた人形、枯れた薔薇。蛙の目玉に落ちた小鳥。
そんなものを引き連れて来るよ。
さあ、戸を閉めて。返事はしちゃいけないよ。
嵐が来るからね。
誘い
悪魔が私を誘ったのです。囁いたのです。
あらゆる欲望が私を渦巻いたのです。
嗚呼、神よ。
愚かな私は、穢れなきこの身を差し出したのです。
太陽
君は太陽だ。
全ての始まりを告げ、希望の光をもたらし、さんさんと輝くあの太陽だ。灼熱の情熱を小さな体に抱いている。
おお、僕の愛しい太陽よ。
例え僕の蝋で固めた翼が溶け、破滅の道へ誘おうとも、僕は君に引き寄せられるのだ。
サーカス
さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
楽しいサーカスショーの始まりだよ。
小人、巨人、生きた骸骨。双頭の少年に4本の腕を持つ少女。狂ったピエロ、狼男、蛇男。呪われた歌姫に吸血鬼。
異形の者達が貴方を楽しませるでしょう。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。楽しいショーの始まりだ。
好奇心
触れてみる。そのしっとりとした感触に思わず手を引っ込めた。
朝露に濡れた木からにょっきり生えているそれは、ちょっぴり柔らかかった。今度は指で抓る様に挟んでみる。
指に力を込めると傘が変形してゆく。
ぐにぐに。ぐにぐに。
ああ、一体こいつをどう分解しようか。
冬の風
「冬の風は怒っているの?だってねぇ、びゅうびゅうって吹いて、がたがたって家とか揺らすでしょ?そうやってきっとみんなを怒ってるんだ。」
「そうねぇ。きっとね、冬の風も寂しいんだよ。だからそんな風に吹くんじゃないかしら?ほら、今だって唸ってるよ。もうすぐ春だから寂しいんだね。」
我が精霊たち
嗚呼、なんと美しい戯れ!
このニンフ達はどうもこうして私を翻弄するのだろうか。くるり舞い踊ると風に乗って宙に漂う金糸の髪。慈愛を含んだその眼差し。口元に笑みをたたえて。穢れなき白い翅と肌は私を狂わせる。さあ、惜しげもなく晒した足に、腕に、その頬に私は口付けを捧げよう。
息
呼吸をやめる。口の中で想いがパチパチ爆ぜた。熱い雫が溢れて頬を伝った。喉がキュッと鳴った。深い眠りに落ちるようなこの瞬間、一番死に近づけた。そこで息を少し吸う。私は新たに生を受けたような錯覚を感じたが、何も変わらなかった。
幸せの鳥
青い鳥の羽根を毟ってただ縋った。掻き集めては引き裂いた。鳥は幸せなんてもたらしてはくれずに、私を見放した。また偽物だと悪態をついて、本物を探す。嗚呼、神様明日こそは死なせてください。そう祈って眠りに落ちる。