椿




今日、私はこの身を落とします。
これで貴方とお会いするのも最後となってしまいますね。
ちょっぴり、いや、とても寂しいですが、私は満足しております。
貴方と巡り会えて良かった、と。
本当ですのよ?


貴方と初めて出会ったとき、この身が燃えるように熱くなりましたの。
だって、あんなにも情熱的な眼差しを降り注いでくださったのは、貴方だけでしたから。
そっと慈しむように私の花弁に触れて、貴方の面が近づいたとき、何故私には豊満な香りを持ち合わせていないのかと、この身を恨みました。
そうすればもっと貴方を魅了できたことでしょう。

いえ、あの日のことはもう良いのです。
だって私の露命はもう尽きます。
花とはそういうものでしょう?
どうか嘆かれないでくださいまし。

貴方に萎み、末枯れて、事切れるような醜い姿を晒すことなんて出来ませんもの。
貴方を愉しませることが出来るのは、この身の美しさだけ。
美しさの欠片も失せてしまった私の何処に価値がありましょう?

だから、私はこの身を落とすのです。
美しいままの姿で貴方の心に留まり、貴方に別れを告げるのです。



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