「なあ。」
「何。」
「好き。」
「急にどうしたのよ。」
「愛してる。」
「...私はそうでもないけどね。」
「へぇー、ふーん、そうなんだ?」
「何よ。」
「でも僕から離れられないでしょ?」
「自惚れてんじゃないわよ。あんたといるのが楽なだけ。」
読書に勤しむ彼女の細い背中、つい構って欲しくてそれにもたれかかった。
彼女は迷惑そうに身を捩ったが、僕を退かそうとはしなかった。
淡々と紡がれていく言葉達。
本を捲る規則的な音。
彼女と背中を合わせて座り込んでいるから、勿論表情は窺えない。
相変わらずぶっきらぼうで捻くれた返事だ。
でも僕には分かってる。
これが分かるのは僕だけで良い。
「...あと言わせてもらうけど、離れられないのはそっちでしょ?」
「そうかもね。」
背中に伝わる彼女の体温が暖かくて、心地良くて、つい喉から小さな笑い声が零れた。
「何笑ってるの。」
「いや、やっぱり好きだなって思って。」
「素っ気なくされるのが好きなの?マゾヒスト?」
「まさか。ただ、ね」
ーそんな態度とってるけど、耳まで真っ赤にしてるとこ好きだよ。
後ろから優しく抱き締めて、そっと耳元で囁いて、おまけに耳朶にキスをした。
髪から覗く柔らかな耳、本来白いはずのそれは赤みを帯びている。
ばっかじゃないの。
彼女が言葉が尻すぼみになって、僕の鼓膜を震わせた。
彼女が僕に顔を向けることはない。
逆に彼女は俯いて、僕に顔を見せまいとする。
彼女の体が羞恥で震える。
艶やかな亜麻色の髪が、僕を遮断するかのようにカーテンみたいに揺れた。
亜麻色のカーテンの中、きっと熟れた林檎みたいに顔を真紅に染めているんだろう。
嗚呼、愛おしい。
名残惜しいけど体を離して、
「本を捲る手、止まってるよ。」
そう指摘すれば、あんたのせいでしょ!と彼女は声を荒げた。
勢いよく上げられた彼女の顔は、やっぱり林檎のようだった。