唇に熱く柔らかい感触がした。
一瞬、一体何をされたのか理解出来なかったが、ほんのりと熱を帯びる唇が物語っている。
所謂、それは口付けで。
不躾に、何の前触れもなく行われたその行為。
唇と唇が触れる程度のものだったが、感じたのは不快感だけだった。
それ以上でもそれ以下でもない。
「一体、なんのつもりなの?」
絞り出した声は予想以上に低かった。
こいつが私をこんな風に弄ぶのは、最近に限ったことではない。
一体何がしたいのか。
仮面を貼り付けたように、挑発とも取れるような笑いをするこいつに殺意が湧いた。
整った容姿のこいつが、きっとその笑みを貼り付けるとたちまち女共が色めくだろう。
それを私に向けられるのが嫌だった。
何を考えているのか読めない笑顔。
まるで能面。
殴りたくなる。
キスぐらいで私が動揺すると思ったの?
こいつは何を期待してるの?
残念。これぐらいで私の気持ちは揺らがない。
くっだらない。ほんと、呆れる。
鼻っ柱折ってやろうか。
沸々と湧き出るどろどろとした感情。
余裕綽々とした、けれども能面のような顔。
「いつか殺してやる。」
「はは、怖いな。」
やっぱりこいつの笑い方は嫌いだ。