クレバーフレーバー



授業が終わり教科書を机へ仕舞った。たった十分間の休憩だ。時計を見てラフィーナは、一息つきたいと机に肘を置く。少しくらい眠りにつきたいものだがそれを妨げるように見事なタイミングで背後からよく知る声が耳を劈いた。

「ラフィーナ!」
「…」
「うわっそんな嫌そうな顔しないでよ〜」

来て早々ラフィーナの冷めた視線を感じ取り、身振り手振りを加えたオーバーなリアクションをしてアミティはラフィーナの席へと近寄ってきた。

「あなたは元気がいいですわね」
「…褒めてる?」
「ええ、もちろん」

ニブチンなことで有名(かどうかは知らないが)な彼女も、流石に言い方に不信感を抱いたようだが大して気にした様子でもなかった。休憩は十分で終わってしまうのだから、早く要件を話して下さいな。そう言うとそうだと思い出したように目を輝かせて大きな口を開いた。

「今日はクルークの誕生日だから、誕生会しよう!」
「嫌ですわ」
「ええええ!即答!」
「どうして私があんなヤツの誕生日をお祝いしなければならないのですか…」

心底面倒だと言うように白い目をしながらそう言った。あまりの返答の早さに大きな岩が落ちてきたようなショックを受けながらアミティは彼女へ懇願する。どうしてもだめ?アミティのその言葉には案外弱かったが、アイツだけはどうしても気に喰わない。再び嫌だと首を横に振る。皆で楽しい事がしたい。そういう考えでの誘いだったが彼女も無理強いはしない、肩を落としながらとぼとぼと自分のクラスへ戻っていった。扉をくぐりアミティが見えなくなった頃、次の授業を知らせるチャイムがスピーカーから鳴り響いた。

『さようなら』決まった挨拶が狭い教室をこだまし、生徒たちがぞろぞろと鞄を抱えて帰っていく。

「ラヘーナ」

さっさと帰りたい。先程からずっとモヤモヤしていて、出来れば誰にも会わずに一人帰ってしまいたいのにこういう時に限って焦りを知らないぬるま湯のような声がラフィーナを呼び止めた。

「なんですの」
「これあげる」
「は?」
「まずい」

突然小さな袋を差し出したと思ったら、あまりに期待の出来ない一言を付けたして教室へ戻っていった。中を覗くと色とりどりのゼリービーンズが詰まっていた。包装を見るとあまりにわけのわからない味が羅列している。いくら色が綺麗でもこんな風に書かれていてはとても美味しそうとは思えない。何故こんなものを私に、残飯係になったような気分で先程より数倍苛立ちが増した足踏みを鳴らしながら玄関へと向かう。試しに一粒口に放り込んでみたがとても食えたものではない、こんなもの作る方が馬鹿だ。飲み込むのも嫌そうに口の中に残った感触を潰しながら靴を履き替える。

「あれ、ラフィーナじゃないか」
「…」

ああ一番聞きたくなかった声だ。ちらりと横目でそちらを見るとラッピングされたプレゼントを何個か腕で抱えたクルークの姿があった。

「またずいぶんと嫌そうな顔を…失礼なヤツだな」
「ええ、何とでも言ってくださいませ、今貴方にはお会いしたくなかったんですの」

突然の八つ当たりをされクルークはムッと眉を吊り上げた。眼鏡を上げようとするがプレゼントが邪魔をして上手く手を上げることが出来ない。

「今日は誕生日なんだ、君は祝ってくれないのかい?」
「そう、私にお祝いしてほしいんですの?何故?」
「それは…」

そう言ってやったら、相手の頬がうっすら赤く染まって見えた。

「貴方を見てると心底ムカムカしますわ。誕生日、おめでとうございます。さようなら」

不機嫌さが混ざる冷静、しかし突き抜けるような真っ直ぐなな声と共にゼリービーンズの袋を投げ付けた。そしてさっさと太陽が沈み始めている校舎の外へ歩き始める。慌ててそれを受け取ったクルークはちょ、ちょっと、と全く状況が掴めず相手を呼び止めようとするが荷物が邪魔して上手く動けない。姿勢を変えながら仕方ないからせめてとゼリービーンズを一つ食べたのか、マズッ、べえと舌を出すそんな声が聞こえて彼女はやってやったと、相変わらずの表情ではあるが、スッキリしたというように思い切り鼻をフンと鳴らす。

向こうから来てほしいって言わないなら絶対誕生会なんて行ってたまるものか。意地など決して張っていない、肩がずしりと重たく感じたのは恐らく気のせいだ。


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