「私あなたの事、一目見たときから嫌いでした」 「そう?それは好都合だな」 彼はくすりと笑う。 小坂田朋香という少女には敵対視している人物が大量にいた。中でも越前リョーマという少年はこれ見よがしに桜乃に近付いていくため特に嫌いだったが、この前の出来事が起こってからというものそんな人物なんてことはない。もっと危険な人物は当然の如く朋香の目の前に現れた。 以前桜乃が立海の先輩に呼ばれているから行ってくるというので、一体あんな学校に何の用があるのか。と私も興味本意で着いていった。テニスコートではとんでもなく厳しい練習が行われていて、フェンス越しに見ているだけで電流の様な気迫にやられそうだった。桜乃はもう見慣れたようにそれを眺めていたが、視線の先はとある少年の方へと向いていた。少年と言っても先輩だが、名前だけなら何度でも聞いたことがある。青い髪に女性の様な顔付き、凛々しい目つきをした幸村精市その人物だった。確かに凄いオーラだけど隣にいる真田とか言う人のがよっぽど部長らしいわね、と人を見かけで判断してはいけないと分かりつつも私は思った。不意に視線に気付いたのか幸村がこちらを向く。先程までも確かに穏やかな顔だなぁとは思ったが、桜乃を見つけたときの視線と言ったらそれはもう心の底から嬉しそうに見えた。ああ、彼は桜乃のことが好きなのだろうと悟った。だけど下心があるようには見えず、こんな人物なら桜乃も好きになっても仕方ないと内心悔しくも諦めを持った。 「竜崎さん、来てくれたんだね」 「はい!お邪魔じゃなかったですか?」 「俺が呼んだのにそんなわけないじゃないか、…そちらの人は?」 幸せボケしたようなその雰囲気からいきなり自分の話題になり動揺した。 「は、初めまして!桜乃の友人の小坂田朋香です。一度立海を見てみたくってついてきちゃいました」 焦りながらも頭を深々と下げ名乗る、頭を上げると幸村と目があった。その表情は先程と大して変わらず笑っていた。が、背筋が凍る程に怖かった。何が怖かったのかわからなかった。勝手に立海の門をくぐった事に怒りを感じているのだろうか。いや、違う。これは、 その夜、家のソファで考えた。立海にいた時は恐怖という感情が先走って頭が働かなかったが、冷静になればなんてことはなく答えに辿り着く。私は嫌われているのだろう。というか彼は嫌いなのだろう、竜崎桜乃という少女に近寄る人物は一通り。フェンス越しに見た私に向けられている瞳は氷のように鋭い。しかしこんなことに負けてはいけない、私も精一杯睨み返した。 「桜乃に近付かないで欲しいんですけど」 「それはこっちの台詞」 初めて立海に行った日から後日、桜乃がまた用があるというから必死に行っちゃだめ、用事があるなら私が行く!と説得した。桜乃自身初めは疑問を浮かべていたものの、特に追求することもなくじゃあお願いするねと笑った。信頼なら誰にも負けない自信があると鼻を高くしたかったが今はそれどころじゃない。 「あなた危ないですよね、桜乃に何をするかわからない」 「酷いな、俺は彼女を誰よりも大切にできるよ」 「っそんなつもりないくせに!」 「ふふ、怖いなぁ。というより君は彼女の何なの?竜崎さんを守るナイトにでもなったつもり?女の子なのに、そんな事できるはずないだろう」 その言葉にぎりっと奥歯を噛み締める。私は桜乃を守ってみせる!思い切り叫ぶとコート中に声が響いた。鳥がバサバサと音を立てて飛び立っていくのが聞こえる。 「君には無理だよ」 にこりと笑ってそう言った。どうしようもない感情が襲ってきて頭に片手をやり苛立ちを表現するように抱えても、恐ろしいほどに自信に満ち溢れたその言葉は音響のように私の中を跳ね返り続ける。だって竜崎さんは俺のものだから。そんな私の姿を嘲け笑うようにそう続けて幸村さんはくるりと私に背を向ける、彼の髪と肩にかかったジャージがふわりと舞った。噛み締めていたら切れたのか口内に血の味が広がった。彼の背中越しにはたくさんのレギュラーが横一列に並び私を見ていた。ふざけないでよ、敵多すぎでしょう。凄まじい威圧と自分の不甲斐なさに涙が止まらない。拳を握りしめてフェンスを殴っても女の私の力では大した音も鳴らなかった。 「女だろうと関係ない!私は桜乃を守る!絶対に守って見せる!」 もう一度、今の自分に出せる最大の声でそう叫ぶと、レギュラー達が口角を釣り上げて笑った気がした。 千夜に捧ぐこの想い Sunx 薄声 |