不条理に花束を添えて



風の匂いがする少女は大分大人しく、自分の意見もまともに吐き出せない。今までに何度か、少なからず私は彼女の事を所謂「意志の弱い人間」などと考えた事がある。偉そうな話ではあるが、私はよく自分勝手だのと揶揄されるもので、自分とは真逆なタイプだなと。

しかし当然のことながら思った事も言えないからと言って、感性が死んでいるわけではない。当然だ。それどころか意識の中心では色々な思考が巡りに巡っているのだろう。私がそんな事に気付き、考えたのは、彼女にわけもなくアミティさんの話を振ってしまった時だった。

「貴女は、いつもアミティさんと一緒に居ようとするのね。」
「いきなりどうしたんですか?」
「いいえ、ふとそう思っただけですわ。」

特に意味はないの、とその場を立ち去ろうとしたが、引き止められた。それは「待って。」や「あの。」などという焦りからくる唐突な引き止めではなく、まるでそう言われるのを待ち望んでいたかのようだった。私の影を優しく掴むように「だって。」そう彼女は言った。私は理由を置き去りにすることが出来ず、再び背後へと静かに振り返った。

「だって、ずっとアミさんと一緒にいないと。ラフィーナさんに取られちゃうかもしれないから」

彼女の目線は下を向き私の視線がぶつかり合う事はなかった、顔はなんだか微笑んでいるようにも見えて、背筋がスッとした。取られちゃうかもしれないからという言葉に、私は心臓が破裂するのではないかというほどに驚きを感じて、思わず手の甲を口元へやった。胃の辺りがぐるぐると蠢いている。普通の人間なら何を言っているんだと、それだけで済む話かもしれないが、そう考えると私はどうやら普通の人間ではないらしい。気付いてはいたが。

「私は、そんなに嫌な人間かしら」
「違いますよ。そんなわけないですよ。とっても優しいです」
「…本心かしらね」
「ええ、私は、アミさんを笑わせてくれる人は、皆優しい人だと思っているので」

一度警戒すると、どうしてだか笑顔が嘘っぽく見えてしまうのは人の悪い癖だと思う。しかし自分も彼女の優しさ、気遣い、不意に見せる意思の強さを知っている為、それ以上疑う必要もなかった。その意志のベクトルがどうにも傾いてしまっている事に不安を隠しきれないのは事実だが。

「アミさんが大好きなラフィーナさん、私もとっても好きです」
「…」
「だけど、それ以上、私はアミさんが大好きなんです」
「それ以上と言い切れる自信があるのね」
「えへ…、そこだけは、譲れませんから」

笑いつつも、その表情は悲哀に満ちていた。譲る譲れないなんて関係ないではないか、私たちは性別が一緒で、伝わる想いは呆気なく消え去っていく。

「ラフィーナさん、もっと強気な事を言ってくるのかと思ってましたけど、とっても悲しい顔をするんですね」
「引き際って肝心だと思いますわよ」
「…引くも何も、私はこの想いを伝えるつもりはないです。アミさんが友達、私の事を大切な友達と言ってくれればそれで、それで幸せなんです」
「あなた…」
「だけど、少しくらいいいですよね、友達なんですから、アミさんを一人占めしようとしても、怒られませんよね」
「わがままね」
「ラフィーナさんだって、同じでしょう?」

彼女の言葉がこんなにも凛々しく、胸を引き裂いてくるなんて思いもしなくて、ショックなのか。悔しいのか。肩に圧し掛かる靄のかかった重さと先程からの胃の不快感が増して、気持ちが悪かった。

「呆れるわね」
「ご、ごめんなさい」
「いいえ、貴女の事ではなく、アミティさんに」
「え…」
「悲しくて、やりきれない」

目の前の彼女が、頷いて、微笑んで、目を覆って泣くまでの一連の流れが、全ての思考を吐きだしているみたいで、私は耐えきれないと、目を伏せた。


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