お前のデータはいつだって不確かだった。
本音を晒しているように見えて、核心の部分は存在すら感付かせない。
本心はどこだと問うた俺をはぐらかすような名前の笑顔は、今思えば寂しげだったように感じる。
自分で隠しておきながら、俺に気付いて欲しかったのか、名前。

「っ、...」
「名前、どうした?」

ぐらりと傾いた名前の痩躯をとっさに支えた俺は驚いた。
元々華奢な体ではあったが、少し前にストレッチの相手をしてもらった時よりも確実に痩せている。

「悪いな柳」
「お前...きちんと食事を取っているか?」
「さっき一緒にお昼食べたろ?昨日丸井に借りたマンガで徹夜したんだ」
「名前、」
「今日ミーティングだけだからってちょっと油断した、気をつけるよ」

上手くはぐらかされて、有無を言わさず話を終わらされて。
何となくだがそこから先を聞けば名前に拒絶される気がして聞けなかった。
何故あの時拒絶を恐れずに踏み込まなかったのだろう。
踏み込めば何か変わっていたか、名前?
もしかしてお前は、それを望んでいたか?
予測するにはあまりにもデータが少なすぎる。
だが名前が突然いなくなってからあの時の記憶を頼りに名前の居場所を探り続けていた俺は、ようやくあるひとつの手がかりに辿りついた。
隠すことが上手な名前の、隠しきれなかったひとつの可能性。
衝撃で、時が止まったかのようだった。
それはあまりにも信じ難く、そしてあまりにも残酷で。
しかし何度情報を一から洗い直しても、辿り着く先は変わらずに。
心だけでなく、体の奥底まで裂けるように痛かった。
弾き出した確率の数字が、どうか間違いであれと。
初めて、自分のデータに対してそう思った。
名前、お前は。
本当に、そこにいるのか...?

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