赤也



入学してすぐ、三強と呼ばれる先輩たちにあっけなく倒された俺に手を差し伸べたのは、名前先輩だった。
お前は強くなるよって言いながら、傷の手当てをしてくれたのも。
幸村部長が倒れたのを見て、不安と心配で怖くてたまらなくて、震えが止まらなくて涙があふれた俺に一番に気付いてくれたのも、名前先輩だった。

「赤也、飲むか?落ちつくぞ」

しゃくりあげる俺の背中を撫でながら差し出されたのは、いちごミルクだった。

「こ、ども、ひっく、あ、あつ、」
「こども扱いか?してないしてない、俺これ好きなんだよ」

初めて知った。
先輩がストローもさしてくれて、一口飲むとほんのり甘かった。
その優しい味とか甘やかしてくれる手に何だかまた喉の奥がきゅうっと痛くなって、ぽろぽろと涙をこぼしながら飲む俺に先輩は困ったように笑って柳先輩を呼んだ。

「柳、ちょっと来てくれ」
「どうした?...赤也、泣いているのか」
「うん、柳じゃないとだめみたいだ」

確かに俺は柳先輩に一番懐いてると思われてもおかしくないくらい柳先輩が好きだ。
でも、だけど、名前先輩じゃだめなんて、そんなことあるわけないのに。
名前先輩だって同じくらい好きなのに。
否定したくても嗚咽で言葉にならなくて、歯がゆかった。

「一気にではなくゆっくり飲め、赤也」
「っは、い」
「よかったな、赤也」

柳先輩にぽんぽんと撫でられる俺を覗きこんで名前先輩は優しく笑った。
俺はなんて幸せ者なんだろうと思った。
やっぱり名前先輩ってすごいや。
みんなを上手に甘えさせてくれる。
俺や丸井先輩や仁王先輩はもちろん、幸村部長に柳生先輩ジャッカル先輩、真田副部長も柳先輩だってみんなみんな、名前先輩に甘やかされてる。
柳先輩を膝枕してるとことか真田副部長を休ませてるとことか、見たことあるし。
だけど、名前先輩は誰に甘えるんだろう?
名前先輩には必要ないのかな。そんなわけねぇよな。
誰だって優しくされたいし、甘えたいときもある。
ねえ、名前先輩。
先輩は、何を思いながらみんなを甘やかしてたんすか。
あの優しい目の内側で、何を考えてたんすか。
ねえ、名前さん、どこに行っちゃったんだよ。
あれからいちごミルク飲んでも、あんなに優しい味はしない。
名前先輩がストローさして渡してくれなきゃ、俺、いやっすよ。
だから前みたいに、ねえ、仕方ないなって笑って、甘やかしてよ。
ねえ、名前先輩。

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