丸井



俺のボレーを一番最初に褒めてくれたのは、お前だったな、名前。
まだお互いの名前も知らない、入りたての時だった。

「天才的だな、今の」

鉄柱に当たって地面を転がったボールを拾い上げて、名前はそう言った。
あの時は「当然だろぃ」なんて言ったけど、本当は嬉しくて嬉しくて、たまらなかったんだ。
俺は選手で、名前はマネージャー。
ダブルスのペアを組んでるジャッカル以外では一番に信頼してた。
皆名前が大好きでとにかく構ってほしくて、俺もそんな中の一人で。
意外と甘いもの好きだってことが分かって一緒にケーキバイキングに行った時は名前を独り占めしていることが嬉しかったし、俺が作ったケーキを美味しい美味しいとたくさん食べてくれたことも、すごく嬉しかった。
でも、名前はいなくなった。
全国大会の慰労会に姿を見せなくて、連絡もつかなくて、皆かなり驚いてた。
何かあったのかなんて話していたけど結局会が終わるまで来なくて、それからしばらくして学校が始まっても、名前は行方不明で音信不通のままだった。
そのまま今になって、俺は時々ふと、名前は幻だったんじゃないかと思うことがある。
それくらい、名前はふいに、鳴り響いていた音楽がぶつりと途切れるようにして消えてしまった。
余韻も残さず、ぱっと、跡形もなく。
よくよく調べれば部室にも教室にも、名前のアパートにも私物はなくて、名前がいた証は俺たちの記憶の中にしか残っていない。
なあ、名前。
お前は、本当に俺たちの傍にいたんだよな?
俺のボレーを天才的だって褒めてくれたよな?
馬鹿馬鹿しい問いかけだってことは分かってる。
でも。
お前の心は、俺たちの傍にいたのかな。
そう考えると、涙が出てくる。
しょっぱいのは好きじゃない。
いきなりいなくなるなんて意味わかんねーよ、名前。
だから絶対探し出してやる。
ジャッカルが。
...俺も。
次会ったときは、ケーキバイキング奢れよな。
代わりにまた、お前のためにケーキ焼くから。

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