仁王



「一週間も休んでどこ行っとったんじゃ、名前」
「ああ、ちょっとばーちゃん家にな」

名前の嘘は、この俺でさえ分かりづらい。
だからこの時もその言葉をちっとも疑わなかった。
今思えばあの時の伏せた目は、見抜いてほしかったんか、名前。
あの時の嘘は、もしかして、今名前がいないことに関係しとるんか。

「名前ー」
「うおっ」

洗濯やメニューづくりに集中している名前の背中にもたれて力を抜くのが好きだった。
重いって怒っていても、振り払われることは一度もなくて。
選手じゃないのに程良くついた筋肉とか、優しい匂いとか、ほんのりあったかい体温とか、全てに安心する。
たまにブンちゃんや赤也に幸村まで同じように名前の背中にひっついとるから、多分みんな同じだと思う。
それに、俺たちのように安心してもたれられる背中が名前にもあったかなんて、あの時は誰も考えてなかったと思う。

「仁王、重い」
「ん?なあ名前、おまえさん痩せたんじゃなか?」
「......そうか?」
「ちょっとじゃけどそんな感じする」
「...あー、夏バテかもな」
「昨日の昼もアイスで済ましとったもんな、ちゃんと食べないかんよ」
「仁王に言われたくねーよ」

ちょっと笑った名前に部室にいた周りの皆が笑って、俺もつられて笑って。
なあ名前、俺はペテン師失格じゃな。
今考えればなんとなく分かる。
あの時、嘘ついとったじゃろ?
なあ、俺たちに嘘をつくようになったのはいつ、なんで?
俺や幸村や参謀でさえ分からんような上手な嘘ついて、おまえさんが隠したかったことは一体何だったんじゃ。
今さら気が付いたってもう遅い、名前はもうおらん。
俺が不安になっても、寂しくなったって、あの背中は手の届くところにはない。
なあ、名前、どこにおるん?

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