※両家家族(捏造)登場注意



名字家の隣に柳家が越してきたのは、名前が小学五年生の頃だった。

「名前、そろそろ蓮二くんたち呼びに行ってくれる?」
「はあい」

末っ子同士が同い年というのもあって、両家はすぐに家族ぐるみで仲良くなった。貰いもののお裾分けに始まり、名前や蓮二の親が用事で外泊する時には子どもを預け合うようになり、夏の週末には柳家で流しそうめんをしたり名字家でバーベキューをしたりするような仲にまでなっていた(ちなみに、今日はそのバーベキューの日だ)。つまり、蓮二と名前は幼馴染というやつである。

「こんばんはー...」

玄関の戸を開けて、奥へ続く薄暗い廊下に向かって声をかける。勝手知ったるとはいえ、名前は人の家にずんずん入って行くような子ではなかった。引っ込み思案な性格ゆえか、何度も泊まったことのある家でも我が家のように振る舞うことはない。というか、純和風でとても広い柳家で迷って涙目になっているところを蓮二に救出された経験から、一人でうろうろしないようにしているというのが一番大きいだろう。

「名前」
「あ、蓮ちゃん。あのね――」
「準備が済んだのだろう?もう母さんたちの準備も終わるはずだ」

蓮二はとても聡明な少年だった。そしてとても美しい男の子だったのだが、幼い名前が彼を美しいと認識することはなく、ただ頭が良くてしっかり者で優しい、大好きな幼馴染という認識だった。「バーベキュー楽しみだね」年の割に大人びた蓮二とは対照的に名前は年相応で、蓮二には懐いているがとても内気な女の子である。「食べ終わったらゲームしようね」「起きていられるのか?」「大丈夫だよ!」「フ、今日も途中で寝てしまう名前に布団をかけてやることになりそうだな」この会話から分かるように、いつも蓮二に世話を焼かれているのだった。

「早百合さん」
「あら名前ちゃん、迎えに来てくれたの?」

蓮二に手を引かれて台所に現れた名前に蓮二の母・早百合は「食材の準備できたから、そろそろ行きましょうね」とにっこり笑った。名前を実の娘のように可愛がってくれる彼女は大和撫子な美人でありながら可愛いところもあり、名前に”おばさん”ではなく名前で呼ばせている。

「ねえ名前ちゃん、今日は巧くん来るの?」
「うん、あとから来るよ」

早百合と共に食材の準備をしていた蓮二の姉・櫻子はほのかに頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。名前の兄・巧は既に成人した大学生で、中学生で年頃の櫻子は彼に淡い憧れを抱いているようだった。それにしても、柳一家は実に美しい家族である。





「おーい母さん、ビールがもう少ないぞ」
「あら、もう?今日足りるかしら」
「お肉焼けたぞ。ほらほら、蓮二も名前ちゃんももっと食べなさい」

大人組はアルコールが入って上機嫌だ。名字家の庭はちょっとしたパーティーのように盛り上がっていた。蓮二と名前は火から離れた場所に並んで座らされ、大人組に放り入れられる肉や野菜を一生懸命もごもご頬張っている。「名前ちゃん、ジュース飲む?」「うん!」櫻子はお姉さんらしくしながらも、早く巧が帰ってこないかとそわそわしているようだった。

「名前、おにぎりも食べろ」
「うーん、もう入らないよ」
「トウモロコシばかり食べているからだ」

蓮二まで率先して名前に世話を焼くので、つまるところ名前は二組の両親と三人の兄姉から可愛がられているようなものだった。と、車庫に車が入ってきた。「あら巧だわ、早かったわね」「バイト早く上がれたんだろう」名前の両親の会話。

「こんばんは、おじさん、早百合さん。櫻子ちゃんに蓮二くんも」

ビニール袋を提げて庭に入ってきた長身の青年が、名前の兄の巧である。「何だか久しぶりね、巧くん。少し見ないうちにまた恰好良くなったわね」「大学に入ってからあんまり家に帰って来ないのよ」とは母親たちの会話。「巧、そのビニール袋は?」「ああ、お酒足りないんじゃないかと思って」「やるじゃないか、流石男前」袋を掲げて見せた巧に、父親たちはすっかりご機嫌である。そして、にこにこと対応していた巧が「蓮二くんはよくうちに泊まってくれてるけど、櫻子ちゃん久しぶりだね」と櫻子に笑いかけると、櫻子は途端に頬を赤らめてしまった。





「それじゃあ巧くんの専門は――」
「はい、ゼミ大会が終わるまでは忙しくて――」

すっかり出来あがった大人組、大人組に混ざって酒を呑む巧、巧の隣でジュース片手に嬉しそうな櫻子。そして末っ子組の二人は言いつけ通り先に名前の家に上がると入浴を済ませ、蓮二が名前の希望に付き合う形でゲームに興じている最中だった。のだが。

「名前、次は名前の番だぞ」
「んー...」

案の定、コントローラを握ったまま名前はうとうとと舟を漕ぎ始めていた。小さく鼻でため息をついた蓮二は、念のため布団の上に座っていて良かったと思う。今の蓮二では、まだ名前の体を運ぶことはできないのだ。「風邪をひくぞ」いつものようにタオルケットをかけてやり、暫くはすやすやとあどけない名前の寝顔をじーっと見ては暇を持て余してその柔らかい頬をつんとつついてみたりしていた蓮二もやがて眠そうにし始める。名前にあれこれ世話を焼いていても、やはり同い年の子どもなのだ。結局自分にタオルケットをかけることなく、彼も名前の隣で夢の世界へ落ちていってしまった。

「あ、やっぱり寝てる」

氷を取りに中に上がってきた巧が末っ子組の様子を見に部屋へ入ってくるなり、すやすやと同じ寝顔で眠る二人にふっと笑う。適当にゲームを片づけると珍しく布団からはみ出し名前の方へ倒れ込むようにして眠っている蓮二をきちんと寝かせてタオルケットをかけてやり、わいわいと盛り上がる庭へ戻って行った。

「巧、ついでに蓮二くんと名前の様子見た?」
「ああ、珍しく蓮二くんが布団もかけずに寝てたよ」
「今日テニスの試合だったから疲れてたんでしょう」
「それでも名前に世話を焼いてくれてたなんて蓮二くんは本当に良い子ね」

気分の高揚した彼らはそのまま「二人は仲良しだな」「結婚したら面白いなあ」なんて好き勝手な話にもつれこむ。当の二人は夢の中、大人の夜は長かった。


これから中学生になって意識して結ばれるまでが書きたいところ...

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