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帰りたくない。
足を引きずるように帰路に着く。



片道30分の距離をいつも一人で歩くわたしはきっと無表情なのだろう。たまにすれ違うおじさんやおばさんが、ちらっと目を向けるだけ。



――――「だからだめなんじゃない! どうするのこんな成績とって!」



今朝、家を出る前に言われた言葉が脳内でこだまする。
わかってはいた。さすがに定期テストで15点は不味かった。人間本当の事を突かれると腹が立つということはこのことだと、実感した瞬間でもあった。



だから、なんとなく。帰りたくない。



だからといって、友だちの家も知らずケータイも所持していないわたしに行くあてもなく今に至る。



やっぱりどこかに寄っていこう。
そんなことを考えて帰路から逸れる。




気づけば、辺りは暗くなっていた。街灯も少なく自分の足元すら見えづらい。どうしようか。開き直って帰ってしまおうか。



でも、どうせ心配してくれるひとなんて家にはいない。どうせ、わたしなんて。



22時を回ったのだろう。周辺の明かりがどんどん消えていく。家も、店も。
孤独感だけが増す。




「さっきからずっと居るよね?」



24時間営業の店に落ち着いて、2時間くらいが経った頃、声を掛けられた。店員だと思われる男の人が、疑いの目を向ける。




「警察に連絡したほうがいいかな?」

「いえ、もう帰るので大丈夫です」



早口で返答し、急ぎ足で出口へ向かう。警察、だなんてそんな面倒くさいことはごめんだ。
店員から逃げるように外へ出て、進む先は、自宅。



無意識だった。無意識に、家に向かっていた。



どんな顔をして帰ればいいのだろう。店を出た時間は、0時を回っていたような気がする。ということは、1時が近いのかもしれない。



いっそのこと、家族全員が寝ていてくれたらいいのに。



自宅の玄関先。
鍵を握りしめたままで身体が固まる。



あ。



ガチャリ、夜中の静かさに響いて目が合った。……お父さん。



「やっと、帰ってきた……。どこ行っていたの?」



いつもは携帯されていないケータイを片手に、お父さんはわたしに近づく。どうしよう。後ろめたさがわたしを小さくする。



「とりあえず家に入ろう。寒いからね」



言われるがまま、引かれるがまま家に入って、驚いた。
リビングには、警察のひとと思しき男の人が2人とお母さん。その近くにはケータイ。
テーブルの上には、わたしの写真。



ああ。そうか。
わたしは泣きたくなった。



「ごめんね、ごめんなさい。ごめんなさい」



被害妄想でしかなかったのだ。家の中の雰囲気と、わたしを見るその眼に謝ることしかできない。ごめんなさい。



「あのときね。最近の写真はありますか? と聞かれたの。でも、なかった。アルバムにもパソコンの中にも、記憶にも。あなたの写真はなかったの」



懐かしい話だ。
他人の想いに気付くことができず、逃げてしまったときの話。




でも、そのおかげでわたしたちはたくさんの“大切”に気付けた。










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