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「ねえ、君。高校生だよね?」



午前9時53分。
黒服の男の人に、声を掛けられました。



「はいそうですけど、」
どちら様ですか?



聞こうとして、睨まれた。
変なおじさんだな。冷静にそう思いました。



伏見がちだった目を男の人に合わせると。



ず、と少しずつ足を前に出して近づく男の人と比例するように、わたしは、ず、と後退。



こわいこわいこわい、これ、絶対不審者だよね。なんで今日に限って誰も通らないの。



田舎道はいつも以上に静まり返っていて、助けなんて呼べない。
震えた手が、ポケットの膨らみに触れる。



あ、ケータイ。



時間にして、数秒。
距離にして、5歩程度。



後退した先で、電話を掛ける。


今までにないくらいの速さでした。
こんなときに限って、なんで早く出てくれないの。逆ギレ半分のわたしは、目の前の男の人を凝視。



目を見開き、狼狽え始めたのを確認したところで、『はい』つながった。



「た、助けて! なんか変なおじさんがいて、それで、」

『とりあえず落ち着けよ。変質者? 今どこ? ハンバーガー買ったんじゃないの?』

「帰り道…、で、えっと、」



早口で戸惑うわたしと、予想外の事だったのか落ち着けと言ったはずなのに早口の相手。



電話に必死で、すっかり存在を忘れていた。
気づいた時にはすぐ目の前に、男の人がいました。



「あ、」



男の人は、わたしからケータイを奪うと、それに向かって話し出した。



「驚かせてしまってすみません。この近くの交番に勤務する、田中と申します。平日のこの時間に制服でうろうろしているのを見つけて、事情を聴こうと思ったのですが……。はい……。いえ、では失礼します」



相手の声など聞こえもしないまま電話は切れた。
男の人はわたしと向かい合うと、頭を下げた。



「怖がらせてしまったね。ごめんね。疑ってしまったことも、謝るよ。……でも、いくら代休だったからとはいえ制服での出歩きは控えてね」



男の人はそのあと、わたしにケータイを返してからわたしと真逆の方向に歩いて行ってしまいました。



とある代休。平日のある日。
制服で出かけたわたしは、補導対象となりました。










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