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ポキポキ。
メールの通知音がポケットの中で鳴り響く。待ってましたと言わんばかりに口角が上がるのを必死で隠しながら、携帯を引き抜く。


《バイトおわった〜》


前に気を配りつつも、その8文字が脳内を支配する。
お疲れさま、と人差し指を滑らせる。
顔文字がいいかな。それとも、スタンプのほうが可愛いかな。
女友だちに宛てるときなら考えもしないような気遣いをする。
前には気を配っているつもり。




ドン。肩と肩がぶつかる。
がちゃん。音を立てて手の中から携帯が、落ちた。




とっさに振り返ったけど、誰とぶつかったのか確認できなかった。
急いで拾い、真っ暗な画面をつける。
……だけど、それは一向に光ることはない。何度、ボタンを押して、何度、画面に這わせても。



「最悪」
自分でも驚くくらいに低い低い声が出た気がする。
でも、本当最悪だ。どうすればいいのだろう。
近くを見渡してみてもそれらしきショップは無い。あーあ。



3日経って、どれだけ自分が依存していたかがよくわかった。


『最低でも5日はかかりますね』


一刻も早く直してもらおうと、次の日ショップに駆け込んで一言。
ガーンという漫画のような効果音が付くくらいショックを覚えたのをよく覚えている。
もしかしたら、大事な話を持ちかけているかもしれない。
もしかしたら、返信を待っているかもしれない。
もしかしたら、もしかしたら。
そんなことばかりが頭を回って、なにも手につかなくなる。
それになによりも、バイトが終わったとメールをくれた彼はどうしているのだろう。お疲れさま、の続きはあったのだろうか。いっそのこと、既読だけで終わってくれていたほうがいい。……いや、でもそれなら修理後に開いたわたしが悲しくなる。
ああ、早く2日過ぎないかな。



5日経っても、携帯は治らないまま。いつになったら返ってくるのだろう。
それほどまでに依存していたのかと思うと怖くなる。
画面だけがすべてのように思っていたのかと思うと怖くなる。



違う。わたしは、それで満足したいわけじゃない。
おはようも、おやすみも、お疲れさまも、ぜんぶ。画面でやり取りしたいわけじゃない。



「あ、」


前には気を配っているつもり。
友だちと笑いながら歩く彼を見つけた。



「なんかあったの? 最近返信ないから……」

「あ、あのね……、――」













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