実写/ブラックアウト | ナノ
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上から見てみよう

不思議に思ったことを聞く時のブラックアウトは、なぜなぜ坊やだ。

『なぜオビがいるんだ』

いらんだろう、これ、と大きな手で帯を持っているブラックアウトに、ノアが振り向いた。

「いるよ」

ノアが帯を受け取り、腰紐の上から帯を巻き付ける。もうすでにはだけてしまった浴衣の折り重なった間から、隆々とした厚い胸板が見える。

『なぜ夏祭りというものがある?』
「うーん、それはわからないよ」
『なぜ衣装を変える必要がある?』
「浴衣は昔は…なんていうのかな、部屋着みたいなものだったわけよ。着物とは違って、今でいうラフな恰好の部類に入ってて、そんな姿でも街を歩いていいんですよー、どうぞ湯上がりに涼みに来てくださいー、無礼講ですよー、みたいな、そんな感じ?あんまりわかんない」
『適当な解釈だな…』
「いいんだよー雰囲気楽しめれば!!はい完了!」

ぱん、と軽くブラックアウトのお腹をたたいて、それから背の高い彼を見上げると、相変わらずの無表情なのに変わりはないものの、優しさのあるその穏やかな表情に安心した。


きみとなつまつり
─上から見てみよう─



彼女の小さな手をとって歩く。歩行者天国となった露店の間を歩くと、ノアはせわしく目に見えるものに反応した。
ブラックアウトはただ隣で、それをゆっくりと見ていた。
いつもとどこか違う彼女は新鮮だが、ただこの祭りというイベントに何の意味があるのかは、やはりわからなかった。

「ブラックアウト…」
『?』

裾を引っ張るノアに振り向くと、指差した方向は、

『…串焼き…』
「食べたい」
『オヤジかおまえは』
「なんでオヤジの文化は知ってるのに浴衣の文化は知らないの?」
『………、』

浴衣にタレをこぼさないように気をつけながら食べているノアの頭を撫でた。

『…子供かオヤジかオンナかバカか分からんな、いつもおまえは』
「…失礼だなあ」
『……見た目や仕草による特徴と事実だ』
「………」

日がすっかり沈んでいるが、昼間とは違う熱気が辺りを包んでいた。

「今何時?」
『19時36分43秒651…』
「じゃあもう少しで花火だね」
『…ハナビ…』
「うん、綺麗だよ」
『おい、ついてるぞ』
「へ、」

ノアの頬についたタレを指ですくった。それを口に運ぶ。

『…しょっぱい…』

ありがとう、と言って笑うノアの手を再びとった。
ハナビが見える場所に行こうという彼女に従った。
わらわらと見物客が入り混じる場所はキツい。衝撃波で一掃したい気持ちを抑える。どうもこの人間が密集している場所がブラックアウトは苦手だった。けれどノアが楽しみにしていたから、という理由だけでなんとか自我を保っている。
人前だとキスをしないノアに、距離を置かれているようでもどかしかった。

「この辺でいいかな」
『…どこから見ても一緒だろう』

そんなことないよ、と言ってブラックアウトを見上げたノアの肩に見ず知らずの他人の肩がぶつかる。

「!!」

よろけた彼女をとっさに支えて、それから不注意極まりないぶつかってきた虫けらを捕まえようとしたが、ノアに止められた。

「大丈夫だから!!気にしないで」
『………』

優しく笑いかけるノアを見ると、何もいえなくなる。

「ありがとねブラックアウト、ほんとは人ごみ苦手だったよね、知ってたんだけど、」
『………』
「ありがとう」

そう言ったノアの背後の空に、ひゅうっ、と何かが立ち上っていった。

『あ、』
「え?」

ドォォオォン!!という轟音。
わあ!!という歓声があがり、周りは皆ハナビとやらを見上げた。ブラックアウトは、それを見ているノアを見つめた。

「ブラックアウト!!花火!!」

心底嬉しそうな顔をしたノアに一度だけ表情が弛む。ノアを背後からゆっくり抱き寄せて、一緒に花火を見た。ノアは一瞬驚いたが、すぐにブラックアウトの腕を自身の腕と絡ませた。

「花火って、」
『?』
「どこから見ても丸いかな」
『…ああ』
「花火師さんが見上げる時も綺麗に見えるかな?」
『必死だろ、お前ら人間は火にも水にも弱い』
「そっか、そうだよね」
『見たいのか?』
「真下から?やだよ、真上からなら見てみたいけど」
『…………、』

"じゃあ、見てみるか?"

花火が終わるまで、あと40分。花火の爆音にかき消されそうなブラックアウトの低い声は、確かに届いた。
花火の途中、その群れから抜ける人々はあまりいない。皆空に咲く花に夢中だ。大人も、子供も。
ブラックアウトは人ごみを避け、なるべく広い場所で"元の姿"に戻った。
けたたましいプロペラの回転音は、花火にかき消された。

今夜はじめて
あなたの中で
花火を上から
眺めるの
こんな幸せは
私だけのもの
2009/08/03