実写/バリケード | ナノ
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十年記念日

夢漫画を書いていただいたお礼に書きました。場所など色々捏造しています。ほんのりTF5ネタバレ……とまではいきませんがそれを思わせるフレーズが出てきますのでご了承ください

じゅうねんきねんび


その森は夜の間、解放される。
自分よりも背の高い木々を気怠げに分け、バリケードは歩いた。彼の手中にいるが、彼よりも背が低い木々は装甲を乱暴に掠めていくので、地球仕様に着飾った彼の塗装が、傷つくのだけが心配だった。
噂によると、この森以外にも、地球で衛星が見逃してくれる森があるらしい。オートボットの隠れ家になっているとの事で、それを聞いたときは、この森はディセプティコンが所有する森なので、その場所と此処は北極と南極みたいな場所なんだろうなとバリケードに言ったら、
「何だそれは、お前は馬鹿か」なんていつも通りに返された。
この森が夜の間解放されるというのは、夜の間、衛星から完全に逃れられる2時間があるという事らしい。それはそのままの姿でも共に過ごせるという事。
先週はスタースクリーム、先々週は、サウンドウェーブがこの森を使ったらしい。参謀は皆使っているし、最奥はメガトロンの所有スペースが常にとって置かれていて、そこには誰も踏み入れないそうだ。それぞれの大切なものを連れて来る特別な場所、らしい。だけどディセプティコンだから、人間の遺体とかそこらへんに落っこちていそうだ。歩くバリケードにそう小さく呟くと、
「そうされたいのなら、そうするが」と、赤い目でぎらりと見つめ返される。
少しひらけたところに出た。遠くの方で他の連中の気配は少しするが、大丈夫だろ、と乱暴にバリケードはそう言って、腰掛けた。
他の連中の気配なんて感じない、世界で2人だけになったような気分になれる場所だ、此処は。座り込んだバリケードは嗚呼、と言って寝転がった。役目を終えた木々たちが地面でバリケードに押さえつけられ、みしみし、と音を立てた。夜の闇に似た、青みがかった黒の装甲を撫でる。今日はバリケードは怒らなかった。羽虫さえ飛んでいない。生き物は誰もいない、森。夜空を二人で見上げると、すっかり星々は秋の装い。あっという間の夏だった。

「出会って、十年か」

バリケードの低い声は、元の姿なのに、とてもクリアで、エフェクトがかかっているようないつもの声色とは違い、優しかった。

「もう、そんなに経った?」

見上げると、紅い目に眩んだ。

「お前、幾つになった?」
「……単純に、出会った歳から、プラス十。言いたくないなぁ」

ふん、と鼻を鳴らしたバリケードが、突っ立ったままの身体を乱暴に手で引き寄せた。不意の出来事でへんな声が出た。

「……びっくりした」
「……いい加減慣れろ」

背中にバリケードを感じる。硬い、金属の感触は静物とは違う、生きている躍動を感じる。生きる音が聞こえる。
今夜のバリケードは、なんだか優しい。

「十年かぁ。一瞬だった?トランスフォーマーってさ、時間の感じ方違うよね、きっと人間と」
「……さあ」
「あっという間におばあちゃんだねぇ」
「……」
「バリケードはどんどんかっこよくなってアップグレードなんかしてさ」
「……あ?」
「私は、シワが増えてシミが増えて膝の曲げ伸ばしがきかなくなって背中が曲がって、白髪が増えて」
「……貴様に変わりはなかろう」

胸の中で何かが押し上がり、泣きたくなった。そう言って欲しかったと思うことを、返されたことがなかった。だから、その不意打ちは効いた。

「そっ、そんな、……なんでそんなこと言うの」
「あ?なんだ、その目は」
「なんか、ぽくない」
「何がだ」
「だって、いつもなら、もっと意地悪言う」

目を細め、苛立った顔をしたバリケードに、少しだけたじろぐ。だけどこれがなんとなく自分の知っているデフォルトのバリケードで、なんだか森に来てからのバリケードは優しくて、少し、怖い。

「……どこにも、いかないよね?」
「……」
「そんなに優しいと、どっか行っちゃいそうで怖い」
「虫けら……まともな会話をすれば優しくないだの吠えて、素直に思ったことを言えば消えそうだの」
「だってなんか、……う、」
「……」
「……嬉しいん、だもん、」

バリケードが、こっちを見てくれている。いつも誰かに見つかりそうで息を潜めて、だけど大胆で、悪運が強くて十年も生き延びた。だけど、イライラもして、何度も何度も、喧嘩をして、だけど、放っておく事なんて出来なかった。大好きだから。

「……なぁ、虫けら」
「そういえばこの森、虫がいないね」
「キューバ、行かないか」
「───え?」

見下ろす真紅の瞳は何の温度も変えないままの苛ついたような表情で、鼻から排気を一度洩らした。

「そこでなら、もっと自由に、……」
「……キューバ……」
「───お前が、選べ」

ディセプティコンと、生きる。
バリケードと、生きる。
大きな、大きな指の先が、頬を掠めた。視界には、PUNISHの文字がでかでかと入り込む。罰せられるのは、自分か、彼か、それとも、二人ともか。

「……それ、今更聞く?」

わざと口を尖らせてそう答えて、彼の手に抱きつく。その手のひらから頭上に、コロンと小さな小さなナットが降ってきた。六角ナット。よく見ると、その六角の一面に、PUNISH、とある。もらっていいの?と燥ぐと、

「……指の太さがわからん。はめてみてサイズが合わなければ……捨てろ」
「へ……?」
「……合わんなら合わせる、早くはめろ」

どこの指にはめるのか、逡巡して……、自分の気持ちに素直になった。
ゆっくり、左手の薬指にはめてみる。
見上げると、終始涼しい顔。視界の赤が滲んでいく。涙が出た。
指輪は、手直しの必要がなかった。
2017/09/12