実写/スタースクリーム | ナノ
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Selfish

『今夜は会いに行く』


携帯に入っていた、彼からのメール。アドレスもないのに受信した。不思議な出来事も、彼といれば普通に感じる。こんな芸当彼にしかできない。

(連絡してくるの初めてかも…)

そう思った。
いつも、彼が私に会いに来るのは不意打ちだった。夜勤明けで髪も肌もボロボロの時にいきなり朝から会いに来たり、友達と飲んでいる途中で待ち伏せされたり、今まで色んな方法で「彼」に会ってきたけれど、会いに来る、と予告を受けた事は、今までなかった。

最後に触れられたのは…
もう1ヶ月近くたつだろうか。
予定も聞かず、1日、2日部屋に居座り、"ネメシス"だとか"サイバトロン"だとか、聞き慣れない言葉の並んだ身の上話(俄には信じられない事ばかりだけど)をして、帰って行く。
こないだも、率いた軍が纏まらないが自分にはどうでもいい、一番であればどうでもいい、そのための犠牲はいくらあっても構わん

と言っていた。
なんていうか、ものすごく子供じみていて自分勝手だ。

けれど、会いに来ればどうしても家に入れたくなる。
何かを憎んでいるようで、何を考えているのか全く掴めない性格。

理解したいのに、怖い。

「自己中心的」をそのまま絵に描いたような性格の彼が、連絡してきた。
会いたい気持ちは、温かい飲み物が喉を通る時のように分かりやすく体と心に入ってくる。

いまだに『好きだ』とダイレクトに言われた事がないけれど、家に男の人を入れたのは、彼が初めてだ。
彼といても、一時的にしか満たされないのは分かっていた。

したい時にして、帰りたくなったら容赦なくその体を戦闘機に擬態させ帰って行く。
風圧と、爆音と、余韻だけ残して。


スタースクリームが好きだ。

触れられる少し熱を持ったあの感触と温度は、人間の男の人のものとは明らかに違う。
いつの間にこんな気持ちになったんだろう。

たとえようのない気持ちに苦しさが増した。

早く夜になってほしい。

仕事から帰って、出していなかったゴミをさっさと出しに行った。
玄関の鍵をあけておいた。
お風呂をいつもよりきれいに洗って、読みかけた雑誌が散漫しているベッドをきれいなシーツに取り替えて整えた。

20時。

(そういえば何時にくる、って聞いてないかも…)

携帯をひらく。
受信したメールを開いて、ダメもとで返信ボタンを押した。

"宛先を入力してください"

予想通りの、結果。

23時。

作った夕飯は、冷たくなった。
メイクもしたまま、髪をきれいに整えていたけど、もう来ないかもと諦めてシャワーを浴びた。
打たれるシャワーの音が寂しさを埋めてくれるような、余計寂しさを増幅させるような、よくわからない気持ちになった。
別の人をみつけるべき?
今さら?

大きなため息をひとつ、つく。

冷蔵庫の中のミネラルウォーターを出す。
持つ手がひんやりして心地いい。

『おい』

いきなり響いた声に思わずミネラルウォーターのペットボトルを落とした。

「びっ…びっくりした!!」

目の前には、約1ヶ月ぶりに会う、彼がいた。

「スタースクリーム…」

なんだか分からない。
会いたかったのに。
抱きついて会いたかったと言いたいのに、出てこない。

『少し、痩せたか』

いつもだったら第一声は、
"会いに来てやった"だの
"貴様の星は何でこう遠いんだ"だの
色んな憎まれ口をたたくのに。

見上げる程に背が高いすらりとしたその体を見つめる。少しごつっ、とした長い指はノアの濡れた髪に触れている。
乱暴なことを言わない彼なんて、不意打ち過ぎて拍子抜けもいいところだ。

「あ…ううん、あいにく、痩せないよ」

少し笑顔を作った。


『会いたかった』

そう言ってスタースクリームは思い切り抱き上げた。息が出来なかった。涙が出てきた。


「ずるい!ずるいよ!」

こんな、こんな事で1ヶ月も放置したことが帳消しになるとでも思ってるのかな、大間違いだよ

『会いたかった』

力は、入らない。
入っても彼にかなうわけがない。

「離して…」
『連絡しなかったのは悪かった、時間軸が違うんだ向こうでは』
「知らないよそんなの!」
『………』
「もう、こないで」
『………』

抱きしめられた腕の力が弱くなった。

「私は探せない!スタースクリームに会いたくても、地球のどこを探してもスタースクリームはいないもん!私はこの星しか歩けない!スタースクリームが宇宙に飛んでっちゃったら待つしかないじゃん!もうやだ!」

泣きじゃくってこんな面倒な事をいう奴は嫌いなはずだ。
彼みたいな性格の人は特に。
嫌われるのがわかっているのに気持ちを抑えられなかった。

『ノア……』

終わりだ。
そもそも、始まってもいないけど…

『ノア、そんなこと言うな…殺してしまいたくなるだろう』
「じゃあいっそ殺して、会えなかったら死んだ方がましだよ!」
『そんなこと言うな…』

不意に近くなる電子音。
唇が重なれば、満たされていく。
なんでこんなに。
また明日になれば、大気圏の向こうにあなたは、きっと飛んでいく。


身勝手なその速さで。

2008 log
なつかしや