いつもの日曜日/stsc編
太陽がのぼりますように
明日も
目が覚めたときに
きみがとなりにいますように
なにもかわらない
きみと過ごす
明日がきますように
『いつもの日曜日』
-Starscream編-
ピンポーンとか、そんな音だった。
音に反応した猫が、しゅたたっ、と走ってきて、スタースクリームの足にまとわりついて、ころころしている。
蹴り上げようかと思ったが、やめた。ノアが飼っているわけではないが、このマンションに住み着いた猫で、ノアはこいつとあうたびに、指を噛ませ、しなやかに腰をおろして、可愛がる。
そいつを蹴り上げたなんて、今から会うノアに言ったら、どんな風な顔をされるかわかったもんじゃないからだ。
軍用機に紛れつつ、部下の通信を待つのがだんだん面倒くさくなって、気がついたら、此処にいた。
ノアがこの中にいるかはわからないが、確かに生体反応はある。
がちゃ、とドアノブが回って、玄関が開いた。
目をこすりながらスタースクリームを見上げるノアは、いつもよりとろい。
「すた…」
スクリーム、と言えずに、ふああ、とあくびをしたノアの、口蓋垂が一瞬、見えた。でかいあくびだな。
『まだ寝てたのか』
「だってまだ5時だよ?今日日曜…ふああ」
そう言って部屋の奥に入っていくノアは、なぜかいつもより小さく見える。気のせいか?
パジャマはくたっ、として、ふにゃふにゃ言いながら、冷蔵庫を開けたノアを見つめた。
「朝ご飯?」
『…要らん』
あ、そう…と、少し不機嫌そうに言うノアは、ベッドに戻っていく。
『おい』
「ごめ、まだ二時間しかねてなくて…あと一時間だけ…」
そう言って、ぽふん、とベッドにダイブしたノアを追いかける。
なんて失礼な女なんだ。
会いに来てやったのに。
いつもは会いたかったと泣くくせに。
『寝るなら…帰るぞ』
ノアは考える余裕もなさそうに、うん…と言って、まどろむ。
ごめんね…、と小さく聞こえた。
本当に帰るぞ。
いいのかよ。
すー…と、寝息が聞こえる。
『………』
はー…、とため息をつき、玄関に向かう。
もう来ないぞ。
わざと、ガチャリと大きな音がたつようにドアノブを勢いよく回す。
一度止まって様子を窺う。
もう来ないからな。
『………』
……やっぱり起きない。
…もう、知らん。
玄関を開け、出て行く。
会いに来てやったのに起きもしないこの無礼極まりないこんな女の為にこんな朝早くから苛々した体を引きずってきたのにこのやろう今度この街を撃ちまくってやる会いに来てやったのに会いたいと言われたわけじゃないが(会いたかったに決まってる)起きた後に寝ぼけて俺を蔑ろにしたことを心の底から後悔しろこの下等生命た…ん?
──「にゃあ」
足にまとわりつくのは、さっきの猫だった。
『……どけ、今イライラしている。蹴るぞ』
玄関のドアを開けたままのスタースクリームに、猫はごろごろまとわりつく。しかも、その場でいい場所を見つけ出したらしく、足を折りたたみ、丸くなる。
玄関のドアをこれ以上開けると、確実に潰されてしまうようなポジションだ。
『………』
………………帰れん。
リビングに戻る。はー…、と、ため息をつきながら。
とりあえず、いつもの場所に腰を下ろす。ベッドの際の、レザーソファー。いつもは気を遣わずどっかりとその身を任せるのに、なぜかそうしてはいけない気がして、ゆっくりと音を立てないように座ろうとするが、レザーソファーにそれを求めるのは無理な話で。
キュキュ、ミシミシ、ブリブリ、と派手な摩擦音がする。ぎょっとして、ノアを見た。
ノアはよほど疲れているのか、全く起きる様子はなかった。
ほっとした。
そしてすぐ、むかっとした。
だが、視線は外せなかった。
『…………』
柔らかそうな髪は頬に少しかかっていて、スタースクリームはそれを撫でた。素肌の彼女の頬もふわふわとしている。いつもなら、頬をさわった感触もあじわう事なく、苛々をぶちまけてしまうこのやわな体。
鼻を触る。頬よりもすこしかたい。
いつも見てくる、目は今は閉じられていて、睫は肌に黒い極細の線をたっぷり描いたようにおりている。
その顔を飽きるまで見た。そして、だんだん心が落ち着いていくのを感じて、そのままスリープモードに切り替えた。
スリープモードから切れた時、何より目の前のノアが驚きに目をぱちくりしていたことが印象深かった。
「き、きてたなら起こしてよ…」
そう言ったままその場を動かないノアに、またため息を至近距離でつく。朝来た事を、覚えていない様子。
『…お前なぁ』
え?とアーモンド型の目が開くときに、そのまま、ただそうしたくなって、起きたての彼女にキスをした。
そんないつもの、日曜日。