実写/スタースクリーム | ナノ
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Close to me

この二年で体に増えたタトゥーを、一番近くで見てきたけれど、理由は聞かなかった。
聞いてもきっと教えてはくれないし、聞いても理解できる自信もなくて。
とはいえ彼はこの二年で随分変わったし、優しくなった気もする。ただわがままに誘惑して体を求めるだけではなくて、意味がないと言いながらも一緒に居てくれる時間が長くなった。今はそれだけでも、悪くないかなと思う。
…スタースクリームにハマりすぎだ、私。

きみとなつまつり
─close to me─


彼の成長(長年生きてきた彼にこんな言い方は失礼)は、そこかしこで見られた。まず、くる前に連絡をくれるようになった(70%くらいの確率で)

『─今夜、行く』

あいにく、今日は先約があった。

「あ、ごめん、今日お祭りだから帰ってくるの遅くなると思う…」
『─オマツリ?』

スタースクリームの声は呆気に取られているような、けれど苛立ったような声だった。こんな日は有無を言わさず掻き抱かれるので、ああ惜しいなと内心思いながら返事をした。

「うん、浴衣を着てね」
『─ユカタ?貴様、俺が行くという日にそれを蹴ってまで優先する事なのか?』

苛立ったスタースクリームは、久しぶりかもしれない、と思った。だんだん穏やかになっていった性格が、ディセプティコンのリーダーが復活してから、また二年前に逆戻りした。
怒るから言わないが、これが一番彼らしいと思うのでノアはかなしくなかった。優しく穏やかな彼も好きだが、結局苛立って余裕なく掻き抱かれるのも好きなのだ。

「…うん、わかった、そっちをキャンセルするね」
『─当たり前だ』

なんで従ってしまうんだろう。

「早く会いたい、待ってるね」

どうしてこうなるのだろう。

『─…ああ』



スタースクリームは加速した。
この二年で、殺した人間の量は増えたが、今通信したこの存在だけは、ひねりつぶして殺すチャンスはゴマンとあったのにやらなかった。
それどころか、求めてくる姿にどうしようもなく応えたくなる衝動は、一体何なのかと思う。
彼女はたぶん、安定剤だ。自分にとっての。
自分にはない柔らかい箇所が気に入っていた。



夕暮れ前に、玄関を開けて迎え入れた彼女は優しく微笑んだが、そのちいさな姿がいつもと違う事に、スタースクリームは気がついた。

『なんだその格好は』
「あ、似合う?」

くるりと玄関でまわってみせて、笑顔を見せたノアを、ただじっと見つめた。

「浴衣っていうんだよ」

そう言ってリビングに向かって歩き出した、たよりない背中を、いつものように抱き締めた。3ヵ月ぶりだった。

「……季節が、」
『…………』
「季節が、変わっちゃうよ」

早くきてほしかった、と言われた。そう言って涙を溜めたノアに、そのままくちづけた。

『だから急いできてやったんだ』
「そうなの?」
『貴様らのようにその身ひとつでは加速もできん下等な生命体ではないからな』

ふん、と鼻を鳴らして主張したが、あまりよくわかっていないようだ。

「……そんな下等生命体のために、すいませんねえ」
『まったくだ』

腕の中のノアは、スタースクリームを見上げて、あ、と何かを思いついたように笑みを見せた。

「今から行かない?お祭り」
『は?何故…』
「たまには外もいいでしょ?」
『…外で抱けと、そういうことか?』
「……ばかだなあ違うよ」
『今貴様俺のことなんつっ…』
「待って、お父さんの若い時の浴衣、あったかも!」

腕をすり抜けていったノアを追いかけた。

『………、』

ノアは、クローゼットの部屋で「あった!!スタースクリーム、あったよー!!」と嬉しそうに叫び、持ってきた煤竹色の浴衣を、スタースクリームの体にあてた。

「うん、色もぴったり!」
『…なんだこれは、』
「浴衣。お祭りに行くときは着る人が多いの」
『おい、俺はまだ行くとは、』
それよりお前を抱きたいんだが、
「はい、脱いでー、」
『…………』

ノアがスタースクリームの脱いだ服をたたんで、タトゥーだらけの大きな背中に肌襦袢をかぶせる。

「あ、でも汗はかかないから肌襦袢は必要ないか」

ただされるがまま、スタースクリームはノアの動きを見ていた。
せわしくまばたきするたびにゆれる長い睫毛を見て、それから、一度だけ舌で舐めて潤った唇を見た。

「腕、少しあげて」

羽織らされた浴衣は、しつらえたように丈が合った。

「少し引っ張ってくれる?」

彼女が自身の浴衣の袖を手で握って引っ張ったので、それを真似た。

「うん、ありがと」

口角があがった彼女の、髪を触る。

「すぐ終わるから待っててね」

見上げてきて笑ったノアと、ただ視線を合わせることしかできずに。

「このくらいしめてもきつくない?」
『…ああ、別に問題ない』

腰骨にあたった紐の感触が僅かにした。だがそれより自分の体ばかり見ている目の前の彼女にばかり神経がいった。

「あとは帯だけ」
『まだあるのか』
「もう少し。がまんして」

長い帯を、器用に肩に乗せたり、結んだりしながら、それから時々スタースクリームを見上げてきた。

「怒らないんだね」

ノアは微笑みながら帯を結んでいる。

『なにが』

一瞬、手が止まり、それから目線を泳がせて、それからまた再開させる。

「あんまりこんなわがまま、聞いてもらえないから」

うれしい、と笑ったノアの笑顔は、
ムカつく。
なんなんだ、なんでこいつのことばっかりで満たされるんだ俺は、

『…………』
「よし、着付け完了!!」

ノアが、少し離れた場所で、スタースクリームを見る。

「うん、カンペキ!!!!」

にこにこしているノアを今すぐ引っ付かんでキスしたいのに、

『…………』
「あ、動きにくいかな?すぐなれるよ」

夏祭りに行きたいというこいつの願いを叶えたくなるのはなんでなんだ、

「あー、でもスタースクリーム逆ナンされそう」

でもやかましいとかいって撃ちそう、と付け加えて笑うノアは、

『ノア、』
「え?」

引き寄せて、とにかく精いっぱい優しく抱き締めた。

『出来るだけ早く帰る事を約束しろ、もう抱きたくて死にそうだ、おれ』

とびきり優しく言えば、こんな女ちょろいもんだ。

「…じゃあ、わたあめと、かき氷買っていい?」
『ああ』
「あと、今夜は寝てる間に勝手に帰らないって約束してくれる?」
『…、』
「あれは本当に辛い…、…お願いだからそれだけはしないで…っ、お願いだから」
『泣くな、わかったから』

─ああ、やっぱり無理だ、

結局どこにも 連れていけない
ここに閉じこめて
ただ自分だけを従順に みてほしいだけ
自分を二番ではなく
いつだって
一番と言ってくれる
唯一の存在だから
2009/08/21