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Aster

12月の青空の下、もう太陽が遠くなったこの季節、荒野で戦うのは両軍。空からの攻撃に耐えかねたサイバトロンは救援を呼んだ。
空中では、スタースクリームをはじめとするジェットロンが軽快に飛び回り、小回りが利くバンブルやクリフ達ミニボットを的と勘違いしているかのように撃ち続ける。

『フン、ちょこまかと!!これでもくらえ!』

スタースクリームが放った一発が、クリフの機体に命中した。

『やられた!!─こちらクリフ、サイバトロン基地応答せよ─』

メインルームで救援信号に気づいたレインは、直ぐに応答した。

『緊急事態発生、クリフガ第7セクター付近デ敵ノ攻撃ニ遭イ負傷』

テレトラン1の報告に、間髪入れずにレインが通信を入れた。

「クリフ大丈夫!?ラチェットとそっちに行くね!先に行った応援組が多分もうすぐそっちに着くと思うから、待ってて!頑張って耐えて!」

通信を切ると、レインはリペアルームに戻ってラチェットに急いで報告した。

『そりゃ大変だ。行ってくるよ!』

トランスフォームしたラチェットに乗り込もうとするレインに、ラチェットが待ったをかけた。

『いや危険だ。相手はジェットロンだ、空からの攻撃が君に当たりでもしたらひとたまりもない』

レインは首を振りラチェットに乗り込んでドアを閉めた。

「行こう!!」

はぁ、と排気をもらしてラチェットが仕方なさそうに、走り出す。

『全く、命知らずなお嬢さんだ』






戦いは続いていた。応援組のパワーグライドとワーパスが参戦し、ジェットロンの優勢ムードが傾く。

『そこのけそこのけお馬が通る、雲を引き裂くこの勢い、パワーグライド様のお通りだい!!』
『ワーパス騎兵隊只今参上!!』

パワーグライドの一撃がスタースクリームに、そしてワーパスの砲弾がサンダークラッカーの左翼に直撃した。

劣勢を強いられたスタースクリームが苦しそうに叫んだ。

『くそ!デストロン軍団、一度体制を立て直すぞ!!退け!!』

彼方に飛び立つジェットロン達、サンダークラッカーは追いかけることができなかった。

『ま、待ってくれ!!』

サンダークラッカーは力なく追いかけようとするが、バランスを崩し目下の林へそのまま落下した。

去り際に、スカイワープがテレポートして良い位置に移動すると、サイバトロンが集まる荒野の崖を撃ち抜いた。
バラバラと巨大な落石がサイバトロンを襲う。

『ハッ、喜ぶのも今のうち、生き埋めになっちまいな。─サンダークラッカー、時間稼ぎしといてやったから、ゆっくり帰ってこい─』

通信を聞いたサンダークラッカーだったが、自己再生装置が効かない。

『─無理だ、救援を、頼む!─』

その通信が届いたのか届いていないのか、返事はなかった。
翼が折れたままのサンダークラッカーは体勢を楽な方に立て直し、はあ、と力なく横たわり基地への通信を試みた。





ラチェットと小さな補修員は無事に現場までたどり着く。共に来たランボルが、重なった岩を片付けた。

ラチェットから降りたレインは、岩から出てきたクリフの状態を見たあと、少し悲しそうな目でラチェットを見た。

「私の手には負えないかも…」
『どれ、私が診よう』

ラチェットがクリフを修理し出すと、ランボルが違う仲間も助けるため、次々に岩を掘り進めていく。

レインは辺りを見回した。腕に取り付けている通信機が、救援信号をキャッチしている。

「もしかしたら他の仲間が別の場所で倒れてるかも!!私、この近くを見てくるね!!」






:
信号が強くなる。
林の木々を分け入りながら、レインは仲間を探した。
左前方に、草花の緑から明らかに浮いた、スカイブルーの機体の一部が見えている。レインが走り出す。

息を切らして走った先に居たのは、翼にデストロンマークを付けたジェット機だった。左翼のデストロンマークが焼け焦げて、煙を吹いていた。

驚いて眺めているとそのジェット機から、

『誰だぁ?』

と間の抜けた声がした。

レインは、ぐったりと横たわったそのジェット機に、ともかく声をかけた。

「…大丈夫?」

サンダークラッカーは人間の女が自分に何の用だと思いながらも、答えた。まず、サンダークラッカーが声を発している事に驚かないのが不思議だった。

『…なんとかな、だが翼をやられた。しばらく飛べそうにない』

人間の女に何を言ったところで解決しないのは分かっているが、相手を無視できない性格が出てしまった。

レインは回りこみ、左翼の状態を確認し、機体に触れた。

『な、何してやがる!!』
「大丈夫、直してあげるから。トランスフォームできる?」

サンダークラッカーは驚いた。何より、自分の正体がばれている。戸惑いながら問いかけた時、彼女の着ているつなぎの腕に、敵のエンブレムがプリントされていることに気がついた。

『き、貴様サイバトロンか!!』
「あんまり喋っちゃダメ、発声装置と…通信機とパーソナルコンポーネントを繋いでる線が切れそうだよ、トランスフォームしなくちゃ修理できない」

機体を撫でながら、そう言った彼女に更に驚いて、返す言葉が出てこない。

『……………』
「はやく」

そう言って自分から離れ、トランスフォームを待つ彼女を理解出来ないまま、サンダークラッカーは言われた通りにトランスフォームした。不本意だったが。

「そういう姿なのね」

そう言って笑い、見上げた彼女に

『……お前、なんだ』

と返した。立ち上がろうとして、よろめいた。

「あ、ダメダメ!今動かないで」

彼女はそう言うと、ガシャガシャと玩具箱のような小さい取っ手付きのボックスから、ミニチュアのリペア器具を出した。どうやら彼女専用らしい。

黙って、サンダークラッカーは彼女のリペアを受けた。人間にリペアを受けたのは初めてだった。
いつもは仲間の荒っぽいリペアか、自己再生を待つのみ。手慣れている優しい手つきに見とれた。

「ジェット機も、車も、同じ同じ…」

その言葉に愕然とする。こいつジェット機を扱った事、ないのか。

『お前、本当に修理できるのか?』

心配そうな面持ちのスカイブルーのジェット機の顔を、レインが見上げて答えた。

「大丈夫大丈夫、なんとかなるよ」

はぁ、とため息をついたサンダークラッカーは、あらためて彼女のリペア風景をみつめる。左翼は先程綺麗に元通りになったものの、メインのパーソナルコンポーネントを調整してくれている。

「あ、私はレイン、まだ名乗ってなかったよね。サイバトロンの補修の手伝いをしてるの」
『なるほど、だからこんなに手慣れてるのか』

納得したような表情になったスカイブルーのジェット機を見上げて、

「あなたは?」

とレインは尋ねた。

『俺ぁサンダークラッカー。ただの航空兵』

今までに、こんな穏やかなデストロンを見たことがなかったレインは、拍子抜けした。

「サンダークラッカー、ね。航空兵、って事は、スタースクリームの部下?」

サンダークラッカーは不満げに頷く。

『あぁ、一応な。だがあいつの言うことを聞いてもろくなこたねんだよな。俺が忠誠を誓っているのはメガトロン様だけさ』

レインは軽く笑ったあと、サンダークラッカーのインサイドパネルを閉じた。

「オッケー、これで多分通信できるよ!!」

サンダークラッカーは通信機を確認するやいなや、

『お前本当にすごいな。こりゃありがてえ』

と丁寧にお礼を言った。

「デストロンにしては丁寧だね、なんかさっきから私拍子抜けしっぱなしなんだけど」
『そうか?』

不思議そうに首を傾げるサンダークラッカーに、レインは微笑み、

「私たち、いい友達になれそうだね」

と一言呟いた。

『トモダチだってぇ?』

見上げてくるブラウンの瞳は、視線の先の戸惑った自分を反射している。なぜかスパークが疼いた。変な気持ちだ。

「また会えたらいいね」

そう言ってパタンとリペアボックスを閉じたレインは、立ち上がって服を整えた。立ち上がった瞬間に付いてきた落ち葉をはらう。

『…あ、ああ。その時はなんか礼をさせてくれ』

サンダークラッカーがそう言うと、嬉しそうに

「じゃあ、今度時間がある時に、基地へ遊びに来てよ」

と言ったので、サンダークラッカーは回答に困った。

『…それは無理だろうさすがに』

悲しげな表情をして、そうだよねやっぱり、と俯いた後、あっ!!と何か思いついたようにサンダークラッカーを見た。

「じゃあ、どこかに連れて行って」
『どこかにって、どこに』

レインがうーん、と考え込みながら、

「分からない、でも高く、速く飛べるんでしょう?」

まぁなぁ、と頷いたサンダークラッカーに微笑み返したレインは、リペアボックスを持ち上げた。

「約束ね。楽しみにしてる」

そう言って走り出した。サンダークラッカーは通信機に目を移すと、新たな通信先が組み込まれている事に気がついた。追加された通信先は、まだほんの何メートルか先にいる彼女だった。

『おい、レイン!』

振り返ったレインは、木々の間から漏れる太陽の光に当たって、髪が輪をかけて輝いている。

「なにー?」

戻ってくる様子はなくその場に立ち止まって叫ぶレインに、サンダークラッカーは疑問に思っていた事をぶつけた。

『なんでデストロンの俺を助けたんだ?』

その問いに、何秒かサンダークラッカーを見つめたまま、まばたきをしたレインは、

「…助けるのに理由がいるのー?」

と、不思議そうに聞いてきた。サンダークラッカーは、何も答えられなかった。
サンダークラッカーの表情に満足したような面もちで、

「またね」

と言うと、今度こそ彼女は振り返らずに去っていった。







:
基地に帰ったサンダークラッカーは、すっかり治ってしまった体を不思議に思われたスタースクリームに問いただされる。

『誰がリペアしたんだ?』

奥で、メガトロンは二人のやり取りを黙って聞いていた。

『お…女だ』
『女だってぇ?』

スタースクリームが拍子抜けして、

『今のを聞きましたかメガトロン様?』

と心底馬鹿にしたような口調でメガトロンを見た。メガトロンは、サンダークラッカーを見やる。しばらくメガトロンと見つめ合う形になったサンダークラッカーは、観念したように答えた。

『…サイバトロンのエンブレムをつけた服を着ていました、人間の女です』

メガトロンの表情が変わる。

『なに、本当かサンダークラッカー。お前の話が本当なら、やはりあの愚か者のコンボイは人間の助けを借りとるというわけだな』
『そんな人間ぶっ殺しちまいましょうメガトロン様!!』
『!!』

スタースクリームのその一言に、サンダークラッカーはスパークが煮えたぎるような怒りを覚えた。そんな事は許せなかった。助けてくれた彼女を、誰にも知られたくなかった。だから言いたくなかったのに、そんな時の勘だけは鋭いスタースクリームを、今日ほど恨んだ日はなかった。

『…だからお前は馬鹿だというんだスタースクリーム』

メガトロンがスタースクリームの提案を遮った。

『見てみろあのすっかり治ったサンダークラッカーの機体を。なかなかいい腕前ではないか、ここはひとつその人間とやらを利用しサイバトロンに一泡吹かせてやるとしよう』
『本気ですかメガトロン様?』

スタースクリームが掴んでいたサンダークラッカーの顎から手を外し、力無くサンダークラッカーはガシャリと床に倒れた。

『コンボイがワシらにひた隠してきた宝物を見つけたというわけだ、面白い。サンダークラッカー、その人間を攫って此処に連れてこい、明日の朝だ』

だから嫌だったんだ。

スタースクリーム、こいつといたら本当にろくな事がない。

『…分かりましたメガトロン様』

表情を悟られまいとして早々にメインルームを後にしたサンダークラッカーだったが、本当に気が進まなかった。助けてもくれず置いていった仲間と、仲間でもないのに助けてくれた彼女。
それを攫って来いというのか。何故こうも貧乏くじばかり引く。

─私たち、いい友達になれそうだね─
─助けるのに、理由がいるー?─

サンダークラッカーは自室で何度も彼女の声を再生させた。

『ヤバいな俺…』

擦り切れそうな再生装置をオフにすると、日付が変わったことに気がついた。12月24日だった。







:
翌日のサイバトロン基地、仲間のメンテナンスを済ませ、自室で一休みする。昨日、レインがサンダークラッカーを修理したことは誰も知らない。レインは1日、あのスカイブルーの彼の事を考えていた。通信先を追加したのは出来心だった。かっこよかったし、単純に好みだった。
しかしそれだけではなかった。ジェットロンがサイバトロンに寝返ることはないにしても、彼と連絡を取り合うことで二つの勢力がこれきっかけに関係を修復するチャンスかもしれない、と考えた部分があったからだ。
なにより、サンダークラッカーが悪い奴だとは、到底思えなかった。
無事に基地に帰れたのか、約束は守ってくれるのか。見慣れない、ジェット機に変形する体と、長い、脚。
電子音が混じるものの、穏やかな、声。

正直、もう一度会いたかった。

窓の外を見やる。
雪が散らついていた。

「ホワイトクリスマス、か…」

そう小さく呟いたレインは、通信機が小さく点滅していることに気がつく。昨日設定したばかりの、スカイブルーの信号だった。






『─聞こえるか?─』

昨日聞いた声なのに、なんだかとても懐かしい気がした。

「うん!!怪我はどう?大丈夫?」
『─ああ、お前のお陰でな。出てこれるか?─』

出て来れないと言ってくれ。頼む。サンダークラッカーは密かにそう願った。

「─うん、外に出たらいいの?─」

答えは明るく返ってきた。基地の近くで着陸したサンダークラッカーは、落胆と同時にまた会えるという喜びにどんな表情をしていいのか分からなかった。

ほどなくして基地の入口に姿を現したレインを、文字通り、攫う。

「え?」

上空を飛ぶサンダークラッカーの開けたハッチから出てきたワイヤーが、レインの体を掴む。

基地の入口で、レインの悲鳴が聞こえた。

テレトラン1が警報を鳴らすと感知したので、ソニックブームを発射させ基地の入口の監視カメラを爆破した。

コックピットに迎え入れたレインが、間髪入れずに叫んだ。

「ちょっと!!なんで攻撃したの!?」
『ちょっと黙っててくれ、時間がないんだ』
「ど、どこ行くの?」

答えなかった。しばらく沈黙が続いて、

『…約束は約束だ』

そう言って雪を降らせる雲を突き抜けた。

「ひゃ……」

雪が降り続ける景色から一転、青空へとその景色が変わる。思わず笑顔になり身を乗り出したレインの表情が見える。

……
……………やっぱり無理だ。彼女を攫うなんて。

そう思い直し、サンダークラッカーは基地を目指していた空路を変えた。

通信機は、全て遮断した。きっと帰ったら、メガトロン様に大目玉くらうかな。ひどい目に遭うだろうな。

「綺麗な青空!!サンダークラッカーとおんなじ色だね!!」

……まあ、いいか。そん時はそん時、どうせ俺は貧乏くじを引く役さ。





:
サンダークラッカーは、ある程度レインに空の景色を楽しませた後、雪の積もる小高い山に着陸した。日暮れ前だった。

「はあ、楽しかった」
『………』

レインはサンダークラッカーに微笑むと、ありがとう、と一言呟いた。その瞬間、

『─レイン、聞こえるか!!私だ!!─』

と、うろたえたコンボイの声がレインの腕に取り付けられている通信機から聞こえた。
サンダークラッカーが通信機を取り上げる。そして踏み潰した。

「あっ、なにす…」

サンダークラッカーがレインを掴んで走り出す。近くにあった、使われていない小さなロッジに、レインを放り込んだ。

またレインが叫ぶ。

「何するの!?なんか変だよサンダークラッカー!!」

レインは涙目になって打ちつけた背中をさすりながら、入口を見た。

人型に変形したサンダークラッカーがロッジへと入った。

「?」

初めて見た青年の服のカラーリングに見覚えがある。

スカイブルーの軍服を、気怠そうに着崩している。少し顔にかかった髪から、赤い目が覗く。

サンダークラッカーだと、すぐに理解できた。

「………」

でも状況が飲み込めない。扉をぴったり閉めた彼は、閉めきった瞬間にうなだれて、ずるずると力なく座り込んだ。

「……サンダークラッカー…?」

おそるおそる歩み寄るレインを、サンダークラッカーは抱き締めた。
限界、だった。

レインは突然抱き締められ戸惑いながらも、サンダークラッカーの頭を撫でた。電子音だけが響くロッジの中はもう日没が近い事を示すように薄暗く、レインの目は、サンダークラッカーを捉えるのが難しくなっていた。表情が見えない。消え入るような、声が聞こえた。

『此処も見つかるな、そのうち…』
「え?」

レインは撫でていた手を止めた。

『お前を攫って来るようにメガトロン様から命令を受けたんだ』
「………」
『だが俺には出来ん、お前を彼処に連れ帰り、ひどい目に遭う姿を見たくなかった』

状況を把握したレインは、戸惑いながらも、撫でる手の反復を再開した。

『約束は果たした。だが任務を果たさず終わらせようとしている。多分俺たちはもう会えない。だから、』

─だから
閉じ込めた。

崩れてしまいそうなくらいに苦しくなった。彼の気持ちが伝わってくる。

「サンダークラッカー…」

寒さに震えながら、レインは彼の名前を呟いた。声が震えた。

『寒いのか!?』

サンダークラッカーは、うなだれていた体を起こし、レインを抱きかかえた。表面温度を少し上げて、レインを温める。

レインは、それに応えるようにサンダークラッカーに抱きついた。

「ありがとう…」

涙が滲む。明日になったらまた敵同士の彼に、もうこうして会うことが叶わなくなったと分かった今、自分たちに許されている時間はもう僅かしかないと悟った。

『レイン…』
「でも、今日はクリスマスイブ、もうすぐクリスマスだよ、大切な人と過ごすこの日に願い事をするの」
『?』
「叶わない夢も、叶う、かもしれない」
『………気休めだな』

サンダークラッカーが答えた。レインも笑って、

「そうかもね」

と言った。

「大切な人に贈り物をする日でもあるんだよ」

レインが説明する。今知ったこのクリスマスという単語を、インプットしたあと、静かに目が合った。

お互い、逸らさなかった。逸らせなかった。
見ておかなければならないと、思った。

『…朝になったら、此処を出よう』

そう言ってサンダークラッカーは、レインの唇に自身のそれを重ねた。寂しいキスだった。お互い、悲しくて、泣いた。涙が出た。

「また、会いたいよ」

そう言って泣きじゃくったレインを、たまらずに抱き締めた。




:
明朝。サンダークラッカーはロッジで眠るレインを残して出て行った。霜で枯れていない花はこれしかなく、摘んだあとめちゃめちゃにしてしまった彼女の通信機を拾い上げ、サイバトロンに救援信号を送り、飛び去った。

起き上がったレインは、隣にサンダークラッカーがいないことを悲しく思って驚き、辺りを見回した。一輪の青い花と、ボロボロになったレインの通信機が、並べて置かれていた。

『───レイン!!』

ほどなくして、パワーグライドが助けに来る。

基地に帰り、安堵した仲間たちに謝った。
コンボイは、無事で良かったと言ってくれた。

また泣きそうになった。

自分の部屋に戻る途中、マイスターとすれ違った。

『おっ、アスターじゃないか。摘んできたのかい?』

と手に持つ青い花を指差した。

「アスター…」
『うん、珍しいね。えーとなになに、キク科?確かに花びらが似てるね。花言葉は………"あなたを忘れない"か、なかなかいい花言葉だね』

笑顔を作ってマイスターにお辞儀をしたレインは、自室に急いだ。
自室に着くと、もう耐えられずに泣きじゃくった。
あなたがくれた、最初で最後のクリスマスプレゼント。



─あなたを忘れない─

2008/12/23