■ある夜のお話
基地の夜は、寂しい。
海の音が聞こえて、静かで、時々通路で誰かがガシャガシャと歩く音が聞こえる。
サウンドウェーブにわがままを言って、小さな強化ガラスで海の底が見える部屋にしてもらった。与えられた部屋は奥行きはないものの、小さな自分には充分の広さだ。
時計は、0:30の表示。
ベッドに座り、ただぼんやり際の壁にもたれたまま、外を見た。群青色の濁った暗い海底は、ゆらゆらよどむだけ。
みんな、元気かな。
…なんて、少しセンチになってみたりして。
『…寝ておらんかったのか?』
突然予期せぬ事が起きると、本当に飛び上がるほど体が跳ねると初めて知った。
背後から声をかけてきたのは、リーダーだった。涙目で彼の方に振り返る。カシャリと足をくみかえてその場でこちらを見下ろしていた。
「………」
いきなりの訪問に放心状態で口が開いたまま、見つめ合っていたのは10秒くらいだろうか。
『…何を見とれておるのだ』
その声で我に返り赤面する。す、すみません、と謝って、それから目を逸らした。
『眠れんのなら…』
かしゃ、と音を立ててゆっくり部屋に入ってきた彼の体は、この奥行きの狭い部屋には不似合いだった。ベッドの際に座ったメガトロンは、腕を組んだ。
『このワシが昔話をしてやろう』
「へ!?」
言葉の意味を考えていると、眉間にしわを寄せた大きな銀色の顔が、こちらの顔を覗き込む。
『…眠れん奴にはこうするのだろうお前達人間は』
思わず何度か瞬きして、それから訳が分からないまま、頷いた。
『よし、ではどの戦争の話がよいのだ』
いや、それじゃ眠れませんから!!
しかもどの戦争とか言われてもどれもわかりませんメガトロン様!
…と、心の中でツッコミを入れ、落ち着いたので深呼吸をして、答えた。
「あ…、戦争のお話は分からないので、他の話を聞かせてくれませんか?」
む?気に入らんか、とまた眉間を寄せる大帝に、びくつきながらも、穏やかな気持ちをおぼえる。
何かあったか…、とメモリーを探している彼は、なんだかんだで優しい。
「じゃあ、お聞きしていいですか?」
メモリー検索に夢中だった表情が止まり、ん、向き直ったた彼は、(年の割に)可愛いと思う。言ったら殺されそうだから言わないけれど。
「どうして、エネルギー強奪をし続けてるんですか?」
質問をした瞬間の、きょとん、という言葉がよく似合うその表情思わず笑ったが、メガトロンはみるみるうちに険しい表情になった。しまったと思い、笑うのををやめた。
ちょっと失礼な質問だったかもしれない。
「…す、すみませ」
『そんな事も知らんで我がデストロン軍団に入ったのかこの愚か者めが』
この自分の立場でそこまで分かったらエスパーですよメガトロン様!しかもいつの間にか入団したことになってる私!
と心の中でツッコミを入れて、落ち着いたのでごめんなさいと謝った。
『…平和のためだ』
冗談なのか本気なのかわからない。
「…………」
『…………なんだ』
何も言えず、ただ首を振る。
『理解できんか』
さっきと同じ事をした。首を振る。
首は振ったものの、理解出来ない、ということには間違いなかった。
だって変だ。
よく、分からない。
『圧制による平和、だ』
「圧制…」
『自由なものの自由を奪うこと』
ベッドの奥へ促され、傍らでブランケットをかけてくるメガトロンは、言っていることはとんでもなくサディステックだ。けれどその手は優しい。黙って従って、ブランケットから半分だけ顔を出して、メガトロンを見上げる。
『自由を奪い我が支配下に統率してこそ、本当の支配だ』
「支配」
『全宇宙の支配』
大きな指が、髪を撫でた。
『短く言えばそんな感じだ』
メガトロンはこちらを見て、アイセンサーを少し綻ばせて、それから、片方の口角をあげた。
『少しは眠くなったか』
少し微笑んで、首を振った。眠気がくる話ではないのに、わがままなやつだなお前は、と言ってまた眉間にしわを寄せた彼を見て、子供の時に戻った気分だった。とても怖い人(人ではないけれど)が目の前にいるのに、言っていることも少し怖かったのに、不思議と心が安まる。
『…しゃべりすぎたな、わしの野望を』
身を乗り出して、ベッドに手をかけてきた大きな手が目線に入ってくる。いきなり近くなった顔は、一気に心臓をわしづかみにする。
「な、ど、どうしたんですか!?」
『…まだ寝れんのだろう?眠くなるようにわしが』
「だ、だいじょうぶですメガトロン様!わた、わたし一人で寝れますから!」
どれどれ、とか言いだしたマイペースな破壊大帝は、今夜はずっと一緒にいてくれるそうで、かなり、本当にうれしいんだけどそれはそれで寝れない!!
『夜はまだ始まったばっかりだぞ「あーあーあー!!!」
『どうしてほしいのだ「ちょ、メガトロン様!!!」
『もっと近くに「きゃああぁあ!」
レインが寝れたのは、朝方だったとかそうじゃないとか。