■スターゲイザー
☆サプライズプレゼントて書きました☆
メンテナンスを終えた昼下がり、リペアルームに入ってきたのは、トランスフォーマーでも一際大きな機体を持つ、スカイファイアーだった。
『レイン』
呼ばれた声で初めてスカイファイアーの入室に気づいたレインとラチェットは、ほぼ2人同時にスライドドアへ目を向けた。
「どうしたの?どこか不具合があった?」
『いや、そうじゃない。テレトラン1に地球の事についての資料を見せてもらっていたら、とても興味深いものがあってね』
「?私が分かるような事?」
『スカイファイアーが興味深いということなら、資源や物質についての記事じゃないかい?』
『いや、それも確かに興味深いんだが、違うんだラチェット』
科学者であるスカイファイアーが興味を持ったもの。
何であっても、地球に興味を持ってくれたことが嬉しかったレインは、笑顔で答えた。
「私が教えてあげられそうなことであれば協力するけど」
『ああ、そう言ってくれると──』
─リペアルーム、応答してくれ─
スカイファイアーが話し始めようとした時、リペアルームの通信機のアラーム音とともに、アイアンハイドの声が通信機から流れてきた。
『こちらラチェット、どうした?』
─偵察に行っていたクリフとハウンドが負傷してるんだ、メインルームに2人ともいるんだが─悪いがこっちでリペアをしてくれないか?─
通信機のボタンを一時オフにしたラチェットはレインとスカイファイアーを見やり、
『私が行くよ、君たちはさっきの話の続きを』
と笑顔で提案した。
『いや、リペアが先だろう。私の用事は趣味のようなものだから、君たちは任務を優先してくれ』
真面目なスカイファイアーの回答に、ラチェットは少し意地の悪い笑みを浮かべる。
『怪我人はたった2人さ。私1人では技量不足と言いたいのかい?』
『あ、いやいやそういう意味ではないよラチェット』
焦って取り繕うとするスカイファイアーを見て、ラチェットは笑顔になった。通信機のボタンをオンにして応答する。
『─アイアンハイド、こちらラチェット。すぐに私がそちらへ向かうよ。その間に二人を診察台へあげておいてくれ』
─了解!助かるよ─
『じゃあレイン、あとは頼んだよ』
ラチェットがレインの肩をぽんと優しく叩くと、レインは笑顔を彼に返した。
「うん。お願いね、ラチェット」
レインの笑顔は魅力がある。今まで色々な星に探索に行ったけれど、こんなに表情が豊かで美しい種族が今までいただろうか、とスカイファイアーは思う。レインが笑顔になると、自分とは異なる生命体に対する探求心とは別の何かが、スカイファイアーを突き動かす。
人間がみなそうかというと、そうではない。
彼女の人柄の良さも大いにこの気持ちに関わっていると、思った。
リペアルームを出ていくラチェットに笑顔を返しつつ手を振るレインに見とれていたら、その視線はすぐ自分に向けられ、我に返った。
『なんだかすまないね』
「ううん、大丈夫大丈夫。それで…」
『ああ』
スカイファイアーは機体からメモリーチップを取り出した。
『これなんだ』
「これ?」
小さなメモリーチップを首を傾げながら受け取ったレインは、再生装置にそれを差し込んだ。
「星座?」
映し出された映像は、星と星を線で結んだ天体図と、流星群のデータだった。
『いやぁ、この独特の考え方や捉え方に驚いてね。面白いと思ったんだ』
「わあ!!スカイファイアーが星座に興味を持つなんて!!実は私も大好きなんだ!!」
一気にレインの声が明るいものに変わる。
スカイファイアーも安心して、笑みがこぼれた。
「いくつか星座の本も持ってるんだよ!!」
『そうなのか?じゃあ教えてもらえるかい?』
「もちろん。今の時期はえーと…しし座流星群が見れるかも…今夜月が出てなかったら、私の部屋で見よっか」
予期せぬレインの提案に、スカイファイアーは少し驚いた。
『夜?休んでいるところをいいのかい?』
なんで?という顔をしてレインが答える。
「大丈夫だよ。マイ天体望遠鏡があるから」
ちょっと得意気な彼女が愛らしくて、思わず真面目なスカイファイアーも笑った。
『そりゃすごい。そういえば君の部屋の天井は開閉式のクリアプレートになっていたね。室内でも天体観測が可能なわけだ』
「そういうこと!私はみんなと違って肉眼ではあんまり満足に観測できないから。月が目立たない時間に回線開いてくれるかな?」
夜、観測、レインに会える。こんなに楽しみな事はあるだろうか。
スカイファイアーは二つ返事でオーケーを出した。
『わかった!楽しみにしているよ』
夜に続く!
23時。
レインの通信機が光った。
『─オホン あー…スカイファイアーだ』
通信機から洩れる声にレインが微笑みながら応答する。
「あ、うん。ドア開いてるよ、いつでもどうぞ!!」
出迎えたレインは、微かに髪が濡れている。柔らかな素材の部屋着に着替えていた彼女は、リラックスしきった笑顔でスカイファイアーを迎えた。
『あ…本当にすまないね、仕事でもないのに』
「ううん、楽しみにしてたから。気にしないでね」
楽しみ、という言葉が何より嬉しかった。
「私、光があると見えないから、電気を消すね」
そう言ってレインが部屋の明かりを消した。
「北西に見えるのがケフェウス」
『うん』
「こっちがオリオン」
『おお』
「これはカシオペアね」
『なるほど』
「あっ、流れた」
『本当だ』
「あ、また!!」
星々を眺めていると、ふとレインが望遠鏡から目を離した。
「いいなぁ」
見上げていたスカイファイアーはレインに目を移して答えた。
『何がだい?』
「だって、肉眼で見えるんでしょう?」
レインの瞳はキラキラしていて、星々を見ている続きのような錯覚に陥った。
『まぁ、視覚センサーはその望遠鏡以上に優れてはいるがね』
「うらやましい」
二人きりの動揺と高揚を隠すために笑った。
『こんなに離れて見ていなければ、こんな風に星たちを組み合わせて星座を作ったりしなかっただろう?』
「そうかもしれないけど…」
スカイファイアーは続ける。
『我々なんて、星の隣を飛行できるから、小さな星は、塵としか思えない。流星群を楽しむ価値観はなかったよ』
「あ、そっかぁ」
レインは納得したように微笑んだ。
『星を眺める事が出来るのは地球に住んでいる何よりの特権さ』
スカイファイアーはそう言うと、ふたたび星を見上げた。
「そうかもね」
レインは穏やかな表情で、スカイファイアーの隣に並び、目線の高さをスカイファイアーに合わせて星を眺めた。
「んー、やっぱり望遠鏡なしだとぜんっぜん見えない。いいなぁ。一回でいいから近くで見たいなぁ」
目を細めて諦めたようにため息をついてレインが口をとがらせる。
その密着した距離感にスカイファイアーは戸惑った。スパークがチリチリと燃えるような、そんな感覚におそわれた。
彼女の熱が伝わってくる。少しひんやりした髪は彼女の頬を覆っている。
『レイン』
「ん?」
『流星を逆に宇宙から眺めてみたくはないかい?』
「そんなことできるの?」
『小さな星が大気圏に突入したときに、大気との摩擦熱で燃え尽きる。この光が流星だ。きっと大気圏から外れても見えるだろう』
スカイファイアーは優しく語りかけてくる。しかし不安だった。
「でもスカイファイアー、私は大気圏の外じゃ星を楽しむどころか、ぺしゃんこになっちゃうんじゃないかなぁ」
『なぁに心配は無用さ。私の機体には酸素タンクも搭載されているし安心して乗っていい』
「そうなの?すごい!」
スカイファイアーは頷いて立ち上がると、
『そうと決まれば』
と手を差し出した。
「え?」
戸惑いながらも、出されるがままスカイファイアーの手を取って、反動で立ち上がる。
『行こう!!』
基地の出口へ走る。
ルームシューズは履いたまま手を引かれ走る。緊張しながらスカイファイアーの背中を見つめた。
なんだかそんな自分を客観的に見て、可笑しかった。初めての宇宙旅行が、パジャマなんて。
基地の外。静かな夜にジェット機のエンジン音。
『つかまってるんだよ』
スカイファイアーの声が聞こえ、笑顔で頷いた。
星と近くなった日。
あなたと星を見た日。
流星がどれだったかもわからないし、どの星が何なのかも、わからなかった。
けれどあなたの中で、宇宙を飛んで、眠るのも忘れて、はしゃいだ。
たった2人の宇宙旅行。
すれ違った星に名前をつけようか。
またいつか、2人で見つけられるように。
セレンさまへ!
大気圏の外から流星群が見えるか、は、ちょっと調べてみたけどわかりませんでしたので、曖昧にしました