実写/サイドウェイズ | ナノ
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The Last Spark

◆リベンジ直前
◆悲恋
◆ウェイズ模索中



上海。滑稽なほどに妖しく光るネオン街を追い越していく。それは些細な気まぐれで、ひとつの場所でじっとしていて、デモリッシャーと有り体な会話を通信だけでやって、それが途端にとても地味で惨めな行為だと思えてきたから。志半ばに斃れた閣下の復活を望んでいたが、今ではその渇望も磨り減って、何をしていてもつまらなかった。
ディセプティコンではあまり目立つ方ではない(目立ちたいとも思わない)。いや、目立たないようにしているのかもしれない。それは、この青くて小さな惑星で出会ってしまった彼女の命が深く関わっていると、思う。
しばらく体を走らせると、光のない海辺にたどりついた。いつもここで、彼女に連絡を入れるのだ。誰にも邪魔されない時間。



一日が終わり、帰宅したあとシャワーを浴びて…、おなかがすいて冷蔵庫を開けた。よく冷えたミネラルウォーターを流し込むと、疲れた体にそれが染み込んでゆくのを感じた。
ぼうっとしている時に考えるひとはただひとり。偶然も運命も石ころみたいにその辺に転がっている。
"優しいクルマ"に出会ったのは一年前。それは見た事のない早さで変形をして、ロボットになる。ロボットには意思があった。名前は、サイドウェイズ。最初こそはびっくりしたけれど、今では…ぼうっとしている時に考える対象になっている。
ひと息ついたところで、テーブルに置きっぱなしにしていた携帯が鳴った。
急いで画面を見れば、"Sideways"の表示。

「あ…!」

すぐに通話のボタンを押した。

「…はい、もしもし…」
『───ノア?』
「サイドウェイズ…」
『───なかなか連絡できなくて悪かったな』

なかなかと言っても、連絡を取らなかったのは3日間だけだ。

「ううん。大丈夫だよ」

今は上海にいるとサイドウェイズから連絡がきて、何ヶ月だろう。何度か一緒の時間を過ごしているけれど、最初はなんだか掴めないひとだなと思ったものだ。

『───何してた?』
「水飲んでた」

ふ、と微笑んだ声を拾った。水を飲むのが珍しいのか、なんなのか原因はわからなかったけれどとにかく笑われた。

「へ、変?」

サイドウェイズは声色をかえずに、『───いいや、そんな事はない』
と言う。

『───普通の生活してるなと思ってな』
「変なの、なんで?普通だよ」

こちらも笑顔になる。3日ぶりに話したというのもあって、うれしくてたまらない。彼から電話がかかってくるなんて珍しいから。

「サイドウェイズ、今度会う時…」
『───ん?』
「どこか、今まで行った事のないところに連れて行ってくれる?」

試しに聞いてみる。なかなか次の約束をしてくれない無頓着な彼に、どうにか約束をおしつけて、その日まで頑張るためのエネルギーをわけてほしかったから。
多分、返答に困ってはぐらかされるだろうと思った。
すると、意外な反応が返ってきた。

『───…行った事ない…とこ?』

話は聞いてくれる気があるらしい。

「うん。あ、上海でもいいよ」

やや間があった。

『───いや、ここは…落ち着かない。だめだ』
「そうなの?」
『───ああ。…なんの魅力も…』
「そうかな?いいと思うけどなあ。上海」
『───どうせ行くなら…』
「うん?」
『───遠出、したいよな』

電話を持ち直す。こんなに意外な回答がくるとは驚いたのだ。ミネラルウォーターをテーブルに置き、髪を拭いていたタオルを洗濯物の中に放り込む。

「…遠出…って?」
『───ああ。何日か…かけて』
「……」
『───ん?嫌か』

今日のサイドウェイズは珍しい。

「う、ううん…、こんな反応初めてだなって…」

普段は、「次会う時は…」とはじめると『いや、いつ会えるかわからない。約束できない』と返されるから余計にびっくりしているのだ。

『───…つまらないんだ』
「え?」

どきりとした。

『───なあ、ノア…』
「…ん?」
『───組織から離れた後の身の振り方を考えてた』

組織。彼が教えてくれたのは、ディセプティコンという組織。今、リーダーが不在であるということ。リーダーが師事していた存在に、全ディセプティコンは従っていること。同じチームのデモリッシャーは確固とした忠誠を、その存在に向けている。でも自分は…、不在のリーダーの復活を望んでいるし、組織の為に死ぬのはまっぴらだと思ってる、と言っていた。

「ディセプティコンじゃなくなるの?」

少し聞きにくかった。ふれてはいけないことかもしれないし。

『───…さあ、あの方が復活すれば、また士気を取り戻せるか…』
「…そっか…」

サイドウェイズは、多分厳しい組織に入っている。殺したり殺されたりは当たり前の組織だろう。

『───だがもし、それが叶ったとしても…それだけじゃ終わらせたくない』
「ん?」
『───前は閣下の為に生きようと決めていた』
「……」
『───だがもうひとつ、生きる理由ができたからな』

まばたきを何度かして、それから息を整えて、言葉の続きを待った。なぜか胸が高鳴った。同時に、なぜか怖くなった。

『───ノア、お前が必要だ』

そんな事を言われたら、なぜかもう会えなくなるようで、怖い。

『───軍を抜けたら、お前のクルマに成りすましていいか』
「…そういうことは、次に会った時に直接言って」

電話の向こうで、サイドウェイズが、また笑ったような気がした。

『───次、か。お前の知らない所を、たくさん見ような。その時、忘れていなければ…必ず言うよ』
「うん」

なぜか涙がでてきた。
早くその時がきてほしい。切にそう願った。

けれども、もう私たちが会える事はなかった。誰にも告げられることもなく…、その死を知ったのは、何年もたってからだった。

私は今から、彼が最期を迎えた上海へ、ひとりで行く。



あの時、もうすでに俺には覚悟ができていたのかもしれない。
それが死への覚悟なのか、軍を抜ける覚悟だったのかは自分でもわからないが。
ただ、いざその時がきた瞬間…、俺は心底生きたいと思った。
生きてノアに、「サイドウェイズ」と呼んでほしいと心から願ってしまった。もう軍にはいられないとも思った。
俺は走った。結局走った。彼女の所へ逃げられれば、生きて辿りつけばいいと思った。
あの時、何がなんでも…、電話ではなく、ノアの所へいけばよかったのかもしれない。魂が散り散りになりながら、俺は尽きるまでずっと、ノアを呼び続けていた。
2011/09/22